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赤ひげのundoのレビュー・感想・評価

赤ひげ(1965年製作の映画)
4.5
医は仁術。

過去の名作を日本公開日順に観ていく「名作巡りの旅」邦画編52作目。

黒澤明監督作品。
原作は山本周五郎「赤ひげ診療譚」
享保の改革の一環として、江戸幕府が設立した無料の診療所、小石川療養所が舞台。
赤ひげの異名を持つ医師、新出去定(にいできょじょう)と医師見習いの若者、保本登の2人を中心に描かれる仁にあふれた物語。

医師ものにはハズレが少ないと思うのだけど、本作はその中でも傑出した作品といって良いだろう。赤ひげ先生の活躍と、保本医師の成長する姿が、力強く躍動するように描かれている。
個人的には、黒澤作品の中で「七人の侍」「生きる」に続く名作だと思う。

キャスト陣の豪華さが異常。
三船敏郎、志村喬、藤原釜足などの黒澤作品常連はともかく、香川京子、笠智衆、田中絹代、杉村春子、加山雄三などの新旧スターが集結!オムニバス形式なのでメインの三船敏郎と加山雄三以外は出番が多くないけど、要所に配置されていて素晴らしい。

特に、三船敏郎は私が観た中では本作がベストだと思う。若い頃も良いんだけど、眼光鋭く信念を貫き通す赤ひげ先生はこの時の彼以外に想像できないと感じた。成瀬監督の「乱れる」を観るまでは若大将のイメージしかなかった加山雄三も理想に燃える若き医者を好演。

物語はオムニバス形式で進むので、長尺ながらまったく飽きることがない。
江戸時代の町民達の苦しいながらも、時に助け合い、たくましく生きる姿が胸を打つ。
悲しくも逃れられない運命に翻弄されながらも、たった一つしかない命を精一杯燃やしながら生きては死んでいく人々の前で、時に医学は無力。その中で、通常の医療行為を逸脱しながらも人々に尽くす赤ひげ先生。まるで、それらすべてが医療と言わんばかりに。

そして、
若き医師と美しき狂女が対峙する場面での息つまる長回し。
父の死を知った娘の独白。
死んだように生きる男が運命の再会を果たす場面で一斉に鳴る風鈴。
心を病んだ少女の暗闇にギラリと光る眼。

一作でこれだけ(もっとたくさんある)の名シーンを生み出す才能が怖い。

まとめると、
「医は仁術」という格言を最も体現した作品といえるだろう。
医の道とは単純に人を治すのではなく、人を活かすための心の道と言えそうだ。


余談
現代においても地域に貢献する医師には、日本医師会(と産経新聞社)から「赤ひげ大賞」という賞が贈られる。賞の名前の由来はこの原作と映画から来ていることは明らかで、今でも医師のあるべき姿を象徴する物語として、本作の精神は息づいていると言えるだろう。







名作巡りの旅次回「サウンド・オブ・ミュージック」
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