むさじー

近松物語のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

近松物語(1954年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

<不貞で極刑という時代の純愛物語>

近松「大経師昔暦」を元に川口松太郎が書いた戯曲を映画化。
何より人間関係が巧妙で、物語が面白い。
大経師の主人は宮中(武士)に取り入り金にうるさく、その立場を狙う同業者がいて、店主の座を狙う手代もいる。
おさんの兄は道楽者で身代が危うく、母は金のためおさんを嫁がせていた。茂兵衛には彼を慕う女中お玉がいたが、主人はお玉を妾にしようと狙っていた。
相関図が出来そうな人間関係だが、各々のキャラが立っているし、役者も光っている。
さらに撮影宮川一夫、音楽早坂文雄も、女の情念を描いたら右に出る者がない溝口ワールドの構築に貢献している。
史実をどこまで反映しているかは不明だが、それにしても封建的な時代というのは理解し難いもの。
不義密通が見つかれば支柱引き回しの上、磔獄門というし、人の色恋に役人が目の色を変えるというのも滑稽な時代ではあった。
これに対し「世に背いた二人の顔が、いまだ見たことがないくらい晴れやか」というエンディングは、不貞という罪悪感を払拭し、真実の愛を成就した達成感に満ちていて、現代に通じるものを感じる。
時代に翻弄された悲恋だが、二人の気持ちは反旗を翻しているような矜持に満ちていて、浄瑠璃を意識した様式美がそれを際立たせている。
むさじー

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