あしたか

桐島、部活やめるってよのあしたかのレビュー・感想・評価

桐島、部活やめるってよ(2012年製作の映画)
4.5
[再鑑賞]


[あらすじ]
バレー部のキャプテンとして活躍し、成績も優秀な高校のスター的存在である桐島が、突然部活を退部して姿を消す。それまで何の疑問もなく学校生活を送ってきた彼の友人や恋人、バレー部員たちに衝撃が走る中、彼とは無関係な映画部の面々にも余波が訪れ…(U-NEXTより)

あらすじから学校内サスペンスを想像する人もいるかもしれないが、決してそういうジャンルの映画ではないので注意。それを期待してると肩透かしを食らってしまうと思うので。
また、桐島が部活を辞めた理由もさほど重要ではない(と、個人的には思う。想像するのは楽しいが)し、何なら桐島はこの映画に登場しない。
この映画は学校生活やスクールカーストを通して人間の感じる疎外感や焦燥感を描いた地味な、それでいて激情を煽る青春群像劇になっている。
以上を踏まえて見れば楽しめると思う。


[見所]
●序盤のカメラ回し
⇒『エレファント』にオマージュを捧げたこの一連のシークエンスは絶妙なもたつき具合で観客をハラハラさせる。桐島の校内での影響力を短時間で描写している

●自然な演技
⇒各役者が驚くほど自然な演技をしている。本物の高校生活を盗み見ているかのよう。これは監督の手腕によるものだろう。

●群像劇として各キャラの心情を描き切っている
⇒スクールカーストの様々な点に位置するキャラクター達"全員"が主役だと言わんばかりの掘り下げ具合。描写が特に多い訳でもないのに印象に残った野球部の彼にはグッときた(少し泣きそうになった)。
まるで自分に思えるようなキャラクターがきっといる筈なのでそれになりきって楽しむも良し、自分とは真逆のキャラクターが抱いていた苦悩(それは恐らく学生時代の自分には想像もつかなかったもの)に思いを馳せるも良し。
多数の"学校あるある"ネタには笑ったり切なくなったりだ。

●宏樹と前田の屋上での会話が素晴らしい
⇒この映画を象徴する名シーン。
「将来は映画監督ですか」
『それはないかな』
「えっ」
弘樹にしてみれば"プロになる気もないのに" 好きなことに没頭する前田の姿が極めて輝いて見えたことだろう。同時に、生まれ持った才能に胡座をかき、何の理想も持たず何の努力もしない自分自身をひどく惨めに思っただろう。
宏樹には桐島と前田が重なって見えたのかもしれない。
しかし、それでも「戦おう、俺たちはこの世界で生きていかなければならないのだから」
持つ者にも持たざる者にも、世界は平等にのしかかってくる。ただ生きていけと、そう言われている気がした。

●エンドロール
⇒高橋優の主題歌を聴いて初めてこの映画は完成すると思うくらいに楽曲が素晴らしかった。"自分だけが置いてけぼりを食らっているような気がする"のはきっと全員がそうだ。
また、宏樹のみ部活欄が( )=空欄になっているのも非常に思わせぶりで、ゾクゾクしてしまった。劣等感を抱いた宏樹が、次に虚しさあるいは向上心を抱いた事の暗示としての( )だと考えると非常に興味深い。宏樹はあの後に何にでもなれる。勿論、我々も。


良い意味で想像の余地がとても大きい映画。
最後に宏樹がなぜ桐島に電話したのかを考えるだけでも楽しい。
落とされているようで実は励まされている。そんな逆説的人生応援映画
あしたか

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