ヤンデル

桐島、部活やめるってよのヤンデルのレビュー・感想・評価

桐島、部活やめるってよ(2012年製作の映画)
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・前田(神木隆之介)が職員室で教師にジョージ・A・ロメロの「ゾンビ」を「マニアック」だと言われて反発するシーンがあるが、「映画秘宝」を読んでいる 前田からすると「ゾンビ」は非常にメジャーなものである。

・また、同時に「高校生の日常的にリアルな物を作れ」とも言われるが、ジョージ・A・ロメロはむしろゾンビの世界を通じて現代社会や差別問題を表現し、普遍的なリアリティを感じさせようとしている。そのため、前田は反発してゾンビ映画を自分達で製作しようとする。

・桐島がいなくなることで、周囲が騒動になる、というストーリーだが、吉田監督もまた、同時に普遍的な問題としてこの作品を捉えた。すなわち、スクールカースト、学内のヒエラルキーの頂点にいた桐島を失うことにより、同じくスポーツ万能でモテた菊池は自分を構成しているものを失ってしまう。それで、終盤では楽しそうに映画を取る前田に迫るのだが、「将来は映画監督ですか?女優と結婚ですか?」と聞かれても前田は意に介さない。これは、「好きなものがあると生きていける」という前田の立場がスクールカーストの上位の菊池と逆転するような構図になっている。

・実際、菊池は冒頭で進路希望書を配られるが、やりたいことが見つからず、部活にも行かなくなりバスケットも真剣にやっているわけではなく、恋愛にも覚めているように見える。

・吉田大八は桐島のことを「天皇のようなもの」と解釈していた。つまり、直接的に権限を行使して人を動かす立場ではないが、確実に日本の中心にいて、もしいなくなったら大変なことになる存在である。

・「桐島~」ではスクールカーストの頂点を失ったことで自分の意義がわからなく人たちを描いているが、原作の朝井リョウは次の作品「何者」で就職活動をする学生たちが「社会では何者なのか、何者になれるのか」が問われている形でテーマが続いている。

・また野球部のキャプテンはドラフトが終わるまではバットを振り続ける、負けても負けても最後まで諦めずに努力する人の象徴として登場する。朝井リョウの「スター」では映画監督になる努力を続ける男と、その世界から降りたにも関わらずひょんなところから才能を認められる男の対比が描かれている。
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