やた

ローマの休日のやたのレビュー・感想・評価

ローマの休日(1953年製作の映画)
4.5
仕事の参考にしたくて「女性の方が社会的地位が高い男女恋愛もの」を観る第一作。

ちゃんと観るのは二回目で、昔いた会社で社長主催のプロット講座があり、その教材として観たのが一回目。ただその講座にまつわる、今もフレッシュに腹立つ出来事があって正直タイトルを見るとそれを思い出してしまう。あのクソボケ人事、今も許してないからな。

▼メインキャラクター
女性:王女。超多忙で真面目に公務をこなすが、かなりストレスがたまっている。自由な俗世への憧れがある。
男性:新聞記者。記者の割に朝刊を読む習慣がないくらい不真面目で、ニューヨーク本社からローマ支局に飛ばされたらしい。

ドレスの中で靴を脱いで指を曲げたりかいたり、それが王女に許された小さな小さな自由で、脱げた靴を拾うことすら許されない環境が、彼女がどれくらい縛られているかがよくわかる表現。
豪華な寝巻きや下着にも時代遅れだと不満を漏らす、少しわがままな面もある。窮屈な環境からするとこれぐらいの不満は言ってもいいよなーと思えるけど、おそらく結末に向けての成長・変化を強調するためにわざと子供っぽく描かれている。

二人の出会いの時、無防備な王女に対してブラッドレーに性的な下心がないのが良い。王女にくっつかれても自分から引き離す動作が何回かあるのは、彼が女性にだらしない質ではないことを表現していて、だからこそこの後恋に落ちてしまう展開の純粋さを高めている。
そして接触を好まないどころかタクシーに置いて行こうとしたり、特に親切ではなく面倒事にあまり関わりたくない性格ということがわかる。
部屋にいるのが王女だと気づいた時も、自分の行動が不敬だったという焦りより、どうしたら利用できるか?を優先して考えたり、基本的にお金のことばかり考えてる描写でわかりやすく人となりを描写している。

自分がやらかしてしまったことに気づいて、帰らなきゃ!と慌てて出て行った割に露店で好奇心を抑えられない王女かわいい。しかも髪まで切っちゃう行動力。
ブラッドレーは私欲のために王女を利用しようとするけど、好奇心旺盛な王女の天真爛漫さに振り回されていて、その状況をだんだん楽しんでいるようにも見えて二人の心理的距離が縮まっていることがわかる。
取り調べシーンではセリフなしで音楽(結婚行進曲)と表情、動作だけで状況がわかるのが上手い。

手が取れちゃったと思って心配して抱きついちゃう王女かわいいし、二人が去った後に映される真実の口の顔が「俺をダシにしていちゃつきやがって…」と言ってるようで面白い。
そしてここから明らかに二人の身体的な距離が近づいてる!
少女漫画でよくあるような、身体的距離が縮まってトゥンク…と明確に「今この時から相手を意識してますよライン」が引かれてないのが巧みさを感じる。
「魅力的」ということを覚えたばかりのスラング(間違ってるけど)で伝えようとする王女かわいい。

▼クライマックス
王女の正体を知る警備員から、王女を守るブラッドレー。海に落とされたブラッドレーを助けるために王女も躊躇なく海に落ちる。びしょ濡れで寒がりながらも笑う王女にたまらなくなってキスをする。ブラッドレーが彼女を守ったのは自分のスクープのためではなく彼女のため、自分がもっと彼女と一緒にいたいためだということがキスでわかる。二人が自分の恋心を自覚する瞬間のように見える。

台所がなく外食ばかり、と言うブラッドレーに「不自由でしょう」と言う王女。「人生は不自由ばかりだ。違うかい?」と聞くブラッドレーに、ハッとしたように王女が「違わないわ」と答えるやり取りが憎い。
料理も裁縫も得意だけど披露する場がない、と言う王女、全てやったことがないと言うよりリアルなロイヤル感がある。
それに対してブラッドレーが「台所がある部屋に引っ越した方が良さそうだ」と言う言葉に「あなたのことが好きで、あなたの作る料理を食べたいし、一緒に暮らしたい」という意味全て詰まっていてオシャレ過ぎる!
「そうね」と返しながらも「もう行かなくては」と言う王女、引き留めないブラッドレーも自分が言ってることなんて夢物語でしかないことがわかっていて、せつない…

別れの時に「追いかけないと約束して」と言ったのは、追いかけられたらより離れがたくなるし、ブラッドレーの身の安全を思ってのことだろうなぁ。二人が「惹かれ合ってるのに離れなければいけない」というようなセンチメンタルなシーンがかなり短いことが、この映画全体の軽やかさに繋がってる気がするけど、当時の受け止められ方はまた違ったのかもしれない。

帰った王女は「責任があるから帰ってきたんやないかい!ガタガタ言うな!」ということを上品に、でもきっぱり言えるようになっていて、就寝前のミルクを断る=恋を知って子供じゃなくなったという描写は小道具を上手く使っていて印象的。

そして王女と新聞記者という立場で再会した時、周りから気づかれないように「秘密を守ろうね」と交わすのもオシャレー!

しかしこんなに何回もアイコンタクト取ってると、「王女もしかしてあの男が好みなんか?」って気づく人いそうやけど、そこはアイドルのコンサートと同じで(俺を見た…)(目が合った…)(俺のこと好きなのかも…)って思うのかな。

▼エンディング
互いに正体が明らかになり、秘密を守ると約束した上で別れる。
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