やた

アメリカン・フィクションのやたのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.0
コメディだと思って観たら、笑えるところは確かにあったけど予想よりもハードな物語だった。
自分の価値観に正直に行動することで他者に受け入れられず、職も失いかねない状況で、家族の問題がどんどん降りかかってくる。
現実ではトラブルは順番にひとつずつ来てくれるわけはなく、最悪に最悪が重なることだって当然あると認識させられる。

白人が望む黒人の物語を書き、それを喜ぶ白人たちを物の価値がわからないと馬鹿にしながらも、モンクの作品にお金を払うと決めるのはみんな白人で、そのお金がなければモンク自身はもちろん母親の世話すらできない描写がグロテスク。
そしてモンクも、リサが「揚げ足取りが好き」と言ったように、常に誰かを見下すことで自分のバランスを取っているように感じた。

セクシャルマイノリティが不幸な死を遂げる映画が多かったり、障がい者を聖人として描くチャリティー番組があったり、多くの人は自分ではない誰かに「こうであって欲しい」と願望を押し付け、「こうなら優しくできる」と見下して、そこから外れると徹底的に叩く、という流れを毎日のようにSNSで目にする。
「黒人の声に耳を傾けなきゃ」と言う白人女性に悪意があるわけではなく、ただ自分の加害性に気づいていないだけ、という話も繰り返し流れてくる今、結局「これは大丈夫なのか?」「これは誰かを傷つけていないのか?」と疑問を持って常に考え続けるしかないんだなと改めて思わされる。

そしてきっと一番大事なのは、「他人が自分と違うこと」を許せる余裕を持って生きることなんだろうなと感じた。

差別についての物語であると同時にもの作りの物語でもあったのが良かった。自分が今携わっている仕事でも「こんなもんばっかり読んでて大丈夫か?」と思えるものがウケて、お金を生み出している現状がある。ジョニーウォーカーのたとえは面白かったし納得だったけど、青が美味しいと思える人がこの社会から一人もいなくなってしまったら、と想像してゾッとした。
やた

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