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私が棄てた女のakrutmのレビュー・感想・評価

私が棄てた女(1969年製作の映画)
3.8
専務の姪との結婚が決まっていながらも、学生時代に肉体だけの関係を楽しんで捨てた女性と再会して良心の呵責にさいなまれる男性を描いた、浦山桐郎監督のドラマ映画。寡作な監督の代表作『キューポラのある街』(吉永小百合)、『非行少女』(和泉雅子)に続く三作目に当たる。本作で森田ミツを演じた小林トシ江は、浦山監督が劇団からスカウトして主役に抜擢した。

遠藤周作の小説『わたしが・棄てた・女』が原作であるが、ハンセン病の話がざっくりと消されているので、棄てられる森田ミツがなぜ無償の愛を貫くのかが曖昧になっていたり、そもそもなぜ友人の言いなりになって娼婦をしなければいけないのかなど、彼女の人物像や背景設定が説得力に欠ける点は、棄てる側の吉岡努の感情描写にも影響を与えていて、本作にとって大きなマイナス点であると言える。

それでも、俳優たちの演技のおかげで、原作とは異なる内容になっているとは言え、映画としての出来は悪くはない。まずは、吉岡を演じる河原崎長一郎が良い。人生の虚無感を感じつつ現在の結婚相手と過去に棄てた女性の間で揺れ動き、次第にミツの心情と同化していく男性を、言動や表情を通じて見事に表現している。相手役の森田ミツを演じた小林トシ江の、所々で見せる表情が可愛くもあるが、幸薄感を醸し出す演技もなかなかのもの。体当たりでの最後のシーンも印象的。撮影現場はかなり厳しかったと、最近のインタビューで語っている。そして、浅丘ルリ子が半分以上を占めているポスターが物語っているように、キャリアが長い浅丘ルリ子がこの二人を脇で支えて、作品全体を引き締めている。
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