かつて世界各国の檜舞台でまばゆいスポットライトを浴びながら多くの観客を魅了したオペラ歌手たちが全盛期を思い出して語り、そして歌う姿。「老い」への悲壮感は少しも感じられず、過ぎ去った輝かしい時代を振り返る彼らの「いま」の姿が印象的…。オペラ歌手や音楽家たちへの尊敬と愛情をこの作品を通して感じます。
イタリア・ミラノに実在する、リタイアしたオペラ歌手や音楽家たちが暮らす老人ホームを舞台に彼らの日常を記録したドキュメンタリー。……ですが、その枠を飛び越えて映画を観ているかのような気持ちになる瞬間があるのはダニエル・シュミット監督だからこそなせる技かしら。
引退してから40年も経つご年配歌手たちが一声を発するだけで、あるいはほんの些細な身振りで演技を披露するだけで、それが大舞台上での振る舞いのように今なお輝きを放つ…。そこには、オペラという芸術の美しさに囚われ、音楽に身を捧げた老芸術家たちの、無邪気さと衰えを見せないエネルギーが満ちているように感じられました。
２人の元オペラ歌手がヴェルディを歌いながら、感極まってお互い手を握ってしまうシーンや、若かりし頃にオペラ『トスカ』を演じた老女が、ナイフを持った右手で相方を刺し殺す演技をみせるシーンなど……ひっそり静まりかえっていた館に活気が甦る感じも素敵。
