ろく

311のろくのレビュー・感想・評価

311(2011年製作の映画)
3.5
「映画には何ができるか」という問いかけに対し、そろそろ「何もできない」ということを明確に言ったほうがいいのかもしれない。

そもそも「○○に何ができるか」という言説がある。音楽、文学、あるいは舞台。いや文化と言ってもよい。それは何もできないんだ。音楽では人は救えない。救えるのは一塊のパンだけだ。あるいは救えるのは結局、医療と武器だけなんだ。

いや、それでも。というかもしれない。でも「それでも」はそう「信じたい」だけなんだ。何度も言う。何も救えないのは当たり前のことなんだ。映画があったとしてもそれはその人の生存を保持する助けにはならないんだ。

そしてそのことを森はこの映画で体感する。彼らは「いてもたってもいられなくなって」福島に、さらには岩手に行く。岩手では多くの人が「肉親」の死体を探す。それを森はただ見るしかない。森達に地元の人は罵声を投げかける。何を撮っているんだ。やめてくれ。「我々は身内を亡くしているんです」。そしてただ佇む森。そう、この映画では森は徹底して無力なものになる。映画は何もできない。

でも森はこの映画を撮った。そして公開した。それは3.11というものに対して何らかの形で抗おうとしたからだ。そして映画の力(それはほんの些細な力でしかないのに)を信じようとしたからだ。森のなかにそんな信心は米粒のような小ささでしか残ってないのに。

映画は何もできない。それでも「何ができる」と思う人を動かすエネルギーにはなる。映画はそれ個体では何もできないけど、人を動かす触媒になれる。それを森は信じている。そしてそれは僕も。

何もできないことを知っていながらも「何かできる」と思い込むこと。それこそが映画の力なのかもしれない。それがフィクショナルなものだとしてもだ。
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