このレビューはネタバレを含みます
寄贈した剣を盗まれてしまう、武術家の話。
ワイヤーを使った、ケレンミたっぷりなアクションが楽しい本作。
流石に空中を浮遊するシーンは滑稽に見えなくもありませんが、その分、格闘シーンは本格的なものになっていますし、秘孔を突く様なギミックも面白かったです。
てっきり、この作品が『マトリックス』に影響を与えたのかと思いきや、『マトリックス』の方が先に作られているんですね。
物語的にはグリーン・ディスティーを巡る争いが描かれるわけですけど、主に女性キャラの視点で進行していくのが、意外だったし、興味深い部分でもありました。
親に結婚相手を決められたり、女人禁制の修行があったりと性差別が描かれ、ラストも恋愛規範から逸脱するものになっていて、現代にも通用する…むしろ今こそ、再評価されるべき物語なのかもしれません。
ただ、見ていて気になったのは、中盤にあるイェンの回想シーン。
それまでのシリアスな世界観から、急にロマンスが描かれるので、個人的には中弛みを感じてしまいました。
イェンの恋人となるローがその後活躍するわけでもなく、2人の恋愛が主題になっていくわけでもないので、正直、不要な描写だった気もします。
イェンの恋愛が後景化していく分、前景化していくのがミシェル・ヨー演じるシューリンの存在。
特に終盤にあるイェンとの対決は。本作の白眉と言っても良いでしょう。
一つ間違えれば大怪我をしかねないアクションを、吹き替えなしで演じた両俳優のスキルとメンタルは素晴らしいものがありましたね。
また、一途にムーバイを想い続けたシューリンからしたら、ムーバイに気に入られ、若さも才能もあるイェンは、とてつもない嫉妬の対象でもあったはず。
そんな後に引けない中年女の意地と執念の様なものも感じましたし、ムーバイを殺されても尚、憎しみを乗り越えていく姿には感動を覚えます。
本作を通して、改めてミシェル・ヨーの凄さ…特にアクション俳優としての魅力を味わう事が出来ました。
『エブエブ』で初めて彼女を知った人も多いと思いますが、そういう人にそこ本作を見て欲しいし、ミシェル・ヨーの入門作としてもオススメ出来る作品と言えるでしょう。