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北陸代理戦争のtakatoのレビュー・感想・評価

北陸代理戦争(1977年製作の映画)
4.3
「仁義なき戦い」から始まる実録路線の最終章にして集大成。映画の出来としても素晴らしいが、その外で起きた事件があまりに凄すぎてよりとんでもないことに…。映画は、その外の事なんて無視して構わないなんて言う連中はタマとったるぞ!な面白さ。この映画についての本「映画の奈落」と合わせての評価。

 本作は、実録路線の最終章として、遂に現在進行形の事件と人物をモデルに制作された作品である。それによって起こってしまった事態は、映画の中以上に出鱈目で、まさに事実は小説より奇なりなのだ。

 公開する前から信じがたいほどに本作はトラブル続きであった。脚本の難航につぐ難航の果てにキャラの一人の男女を入れ替えるという奇策、渡瀬さんがあわやという大事故、記録的豪雪をモデルになった組の人たちと協力して乗り越える、県警からのクレームなどなど。しかし、それらすら公開後に起こった事件の前では色褪せた。モデルになった組長が映画と同じシチュエーションで殺害されたのだ。そんなことが起こった作品は、世界映画史を見ても前代未聞であろう。その後に起こった出来事も本には記されているが、一つにの映画が起こした波紋から波及し続ける人間の生き様だけで心に響くものがある。

 映画自体の出来栄えとしも素晴らしい。「仁義なき戦い」シリーズは、一見広島ヤクザの壮絶なる抗争!みたいな豪快な感じを受けるが、その根底には社会の中でどうにもならない諦念に満ちていて正直上がりづらい。本作は、笠原さんからその弟子分の高田さんに引き継がれ、なんとか名作の脚本を乗り越えようと実録でありながら上がる展開もあるものになっている。

 主演の松方さんも本当にハマり役!。親でも殺す狂犬ぶりと、両者を罠に嵌める巧妙さも併せ持ったベストワークの一つかもってくらい見事!。深作さんの実録で開発した動きまくり、横倒しになったりすカメラの凄さも本作ではピークに達している。特に白眉は、実際に事件が起こってしまった喫茶店襲撃パート。思わず声が出ちゃう迫力と、単に凄惨で惨めに終わらない魅力がある素晴らしいシーンになっている。当時は興行は大コケだったそうだが、「カリオストロの城」とかと同じで真の名作は時代を超えてしまうところにあるのかもしれない、としみじみ思わされた一本。
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