荒野の狼

居酒屋兆治の荒野の狼のレビュー・感想・評価

居酒屋兆治(1983年製作の映画)
4.0
1983年の125分の映画。出演陣の当時の年齢は高倉健52歳(1931年生)、大原麗子37歳(1946年生)、加藤登紀子40歳(1943年生)、田中邦衛51歳(1932年生)、平田満30歳(1953年生)。設定上、違和感を感じるのは平田で、映画では大原が平田との年齢差を気にするシーンがあり、平田より5歳ほどは若い役者が適当であった。ほかにミスキャストは左とん平で、裕福なとん平に大原が嫁いだという設定だが、とん平は貧相にしか見えない。共演人のなかでは、この役に適任であったのは池辺良だろう。
本作でユニークなのは、登場人物の過去が、ほんの短く断片的にしか紹介されていないにも関わらず、役者の存在感・演技から視聴者には人物関係が理解できる。たとえば元上司佐藤慶は高倉を解雇した人物という設定であるが、二人の共演場面にセリフは皆無であるのに、道路を隔てた距離にあるにも関わらず、役者同士の目線だけで過去に何があったかがわかるような名優同志ならではの場面がある。高倉と大原の関係も、ずぶ濡れになって石橋の上から大原を探す高倉と橋の下で雨に濡れている大原の遠景で、会話なしで、視聴者には二人の想いも過去も伝わる。
高倉は抑えた演技だが、伊丹十三の腹にパンチを打ち込むシーンは、あたかも短刀を突き刺すような迫力。またラストで涙をぬぐうシーンは、高倉が「海峡」で同僚の墓の前で涙をぬぐうシーンを彷彿させるもので切ない。大原は哀愁があって美しく、高倉との札幌市すすきのでの場面設定は、常識的には偶然が重なりすぎて陳腐であったりするが、映画のお約束事として見れば気にならない。
主題歌「時代おくれの酒場」はエンディングで高倉のものが流れるが、予告編では加藤登紀子のものが使われている。映画の雰囲気から、本編でも加藤バージョンを使ったほうが正解であった。高倉の本作の役柄から主題歌を歌うのは違和感があり、逆に加藤バージョンは切なく、本作の雰囲気があらわれている。
荒野の狼

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