すくりね

ファントム・オブ・パラダイスのすくりねのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

Phantom of the Paradise
ファントム オブ ザ パラダイス

「スカーフェイス」「カリートの道」などで知られるブライアン・デ・パルマ監督が手掛ける今作。
有名ミュージカル「オペラ座の怪人」をロックテイストで描くというかなり挑戦的な試みを行っていますが、結論から言えばなかなかに荒唐無稽な部分も多く、本当にあの硬派な作品を撮った監督か?と思わされる作品でした。

・目を離したつもりはないのだが…
自らの書いた「ファウスト」の楽曲を盗作のような形で使われてしまったシンガーソングライターのウィンスロー。顔に傷を負い、心にも深い傷を負った彼は盗作の元凶である有名プロデューサーであるスワンに復讐を誓います。

というのがおおまかなストーリーなのですが、その描かれ方は、何シーンか省略しました?と思うほどの高速テンポでお送りされるので、面食らうこと間違いなしです。

例えば、スワンの開催するオーディションに潜り込んだウィンスローは、野球選手のごとく目の下を黒く塗った警備員に追い出されてしまいます。

しかし何故かその次のシーンで、女性たちが官能的にお互いに触れ合うというオーディションなのかスワンの性癖なのかよくわからん部屋が出てきて、そこにウィンスローがこっそり参加しているというサプライズ。

その後警備員に再び追い出され、外で横たわっていると2人の悪徳警官が現れ、ウィンスローは薬物の違法所持の濡れ衣を着せられてしまいます。

投獄された彼は、「歯は感染症の原因になるから全部抜歯!」と謎の衛生観念を持つ所長がいる理不尽な環境において精神を蝕まれていきます。

そして、スワンがパラダイスという劇場でファウストの楽曲を使い公演を行うということを刑務所内のテレビで観たウィンスローは、ついに発狂ブチギレで刑務作業中のベルトコンベアーの上を叫び散らかしながら走り回ります。

間髪を入れず自らをダンボールに梱包し(潜入任務の必需品だ。)貨物輸送中の車から飛び降りるのです。

この精神崩壊からの脱獄プロセスは約30秒位で描かれるので、そのテンポ感には笑わざるを得ません。

刑務所内の設計図を入れ墨で全身に彫った上で相当な苦労を重ねてプリズン・ブレイクしたマイケルが不憫に思えてくるほどのスピード脱獄でしたね。

・情報量が多い
まぁ前述のスピード感にもつながる部分かもしれませんが、この映画1シーンの情報量がやたら多いんです。

例えば冒頭の公開オーディションのようなシーンでは「ザ・ジューシー・フルーツ」という芸人トリオにいそうな名前のバンドグループが出てきて歌うシーンがあります。

ただこのシーン、スタジオの中心で歌うバンドの後ろで観客が踊ったり騒いだりする姿がチラチラ画角に入ってくるなど気になる要素がたっぷりでどこに集中していいのかわかりません。

そのほかにもスワンの劇場にて「ファウスト」の楽曲を「ザ・ジューシー・フルーツ」が歌うシーンがあります。

このシーンではおもむろに画面が2分割され、歌唱中の映像と舞台裏が同時に描かれるのですが、歌と舞台裏のセリフの音量レベルがほぼ同等なので、聖徳太子スキルを習得していない自分には本当に何を言っているか分かりませんでしたね。まぁ字幕版で観たんですけど。

ただ音声を聞き分けられたとして、出演者の「星座的に不吉な予兆が出てるから俺は舞台に出たくない!」という謎のやり取り※が進行しているだけなので、結局何言ってんすか?みたいになる気はしますが。

極め付けは、脱獄後のウィンスローがスワンのレコード会社に侵入し「ファウスト」のレコードの破壊工作を行おうとして懐からダイナマイトを取り出し爆破しようとするもあえなく警備員に見つかり逃げようとする途中でプレス機に挟まれ顔面に傷を負ってしまう、という一幕の情報量の特盛さ加減。

しかも前述したように、J.Kシモンズが"Not quite my f**king tempo!!"とシャウトするほど高速テンポにてお送りされるので圧倒されること間違いなしです。

・ファウストの呪い
「ファウスト」に関わった人は全員不幸になるエンドで不憫でしたね。

まぁ悪魔と契約したスワンが全ての元凶ではありますけど、悪魔自体もラストで死んでしまいますし。

復讐に取り憑かれファントムとなってしまったウィンスローも、生涯をかけて作ろうとしていた「ファウスト」を数日で完成させろ、と半ば軟禁状態でカンヅメ状態で作曲させられる始末。
恋心を抱いたフェニックスとも結ばれず、悪魔と共倒れ。

あとオネエキャラのステレオタイプを煮しめたようなビーフもコミカルな感じで感電死させられたり。

劇中にてファントムの悲痛な叫びを幾度も聞かされることになるのですが、前述したようにテンポ感と情報量のせいでコメディ?ドラマ?とどう観ていいのか迷わされ、観てるこちら側もやるせない気持ちにさせられました。

まぁ何はともあれ、結構なイロモノ映画だったので珍味として非常に楽しめる一本でした。


※「ファウスト」自体、錬金術や占星術を使う黒魔術師という噂があったドクトル・ファウストスの伝説をゲーテが生涯をかけて戯曲にしたものなので、占星術的な部分から「星座が…」みたいな会話を組み込んだのかもしれません。
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