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エレメント・オブ・クライムのすくりねのレビュー・感想・評価

4.0
ラース・フォン・トリアー監督の出世作ともなったサスペンス映画。

刑事である主人公は、精神科医の催眠療法を受けており、少女連続殺人事件の捜査について記憶を呼び覚ましていた。
彼の恩師の著書「エレメント・オブ・クライム(犯罪の原則)」を元に犯人の行動原理をなぞりつつ捜査を続ける主人公は、徐々に真相に近づいていくのだが…

全編セピア調の映像で描かれる今作は、言うなればデヴィッド・フィンチャーとデヴィッド・リンチの特徴的な要素を併せ持ったようなミステリー映画。

舞台がエジプトだということもあり、フィンチャーのような乾いてパキッとしたスタイリッシュな映像が楽しめる。
それに加えて作中では水が出てくる場面も多かったり、セピア調の思い出的な柔らかさも孕んでいるため、そのコントラストが面白い。

主人公は「犯罪の原則」という、犯罪者がどのように行動するかを分析した著書を元に実際に犯人の気持ちになって殺人犯の足跡を追う。

現代では犯罪者プロファイリングはフィクションでも一般的になっており、代表的なもので言えば長寿シリーズ「クリミナル・マインド FBI 行動分析課」などがある。

それこそ、Netflixオリジナルシリーズ「マインド・ハンター」では、デヴィッド・フィンチャーが監督を務め、1970年代後半に犯罪者プロファイリングの黎明期を創り上げる2人のFBI捜査官が描かれた。

「エレメント・オブ・クライム」の公開が1984年だと考えれば、早々と映画に犯罪者プロファイリング的な考えを取り入れた今作はかなり挑戦的な試みだったのかもしれない。

劇中では主人公の回想が主であることから、現実世界と心象風景が入り乱れて描かれる。
コントラストの強い映像で背景は闇に溶け込み、殺害現場や人々が不気味に黄朽葉色に照らされている様は幻想的で、夢か現実か境界がぼやけてしまうようで面白い。

このような表現はデヴィッド・リンチ作品でも見られることは多いが、今作では精神科医による催眠療法という前提があるためそこまで驚きはない。
むしろリンチ作品では夢と現実の境界を表現しないにも関わらず、個人的には分かりやすく描いているつもり、という監督の考えもあるらしいので、奇抜に見えるラース・フォン・トリアー作品も相対的に見やすく感じてしまう気がした。

とはいえ、わかりやすいミステリー作品というわけではなく、気味の悪さや不安定さを楽しむような作品であるため、
ホラー映画好きにも刺さるかもしれない。
作品の雰囲気的にドラマ「キングダム」にも通底するものがあるので、ラース・フォン・トリアー作品を鑑賞するきっかけとして良い作品なので、ここから始めるのもいいかも。
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