すくりね

オオカミの家のすくりねのレビュー・感想・評価

オオカミの家(2018年製作の映画)
4.0
チリ発のストップモーションアニメ。

マリアという少女がブタを逃してしまった罰に耐えかねて集落を飛び出し、辿り着いた先の空き家にて2匹の子豚と出会い、一緒に暮らすことになる。

基本的には寓話のような話運びで、マリアと子豚たちのやりとりに終始しているが、冒頭での説明でも示唆されるように、その背景には歴史的な出来事が絡んでおり、そのことのメタファーとしての映画だったらしい。

らしい、というのも自分はその歴史に明るくなかったことや、劇中において具体的な説明がされるわけでもないため、映画の中で何が行われているかは理解できたものの、その外側での現実世界とのリンクのような部分を推し量ることはできなかった。

ただ、そこを抜きにしても映像がかなり魅力的なため、個人的にはそれだけでも楽しむことができたと思う。

そもそも、今作は映像表現として非常に面白い手法をとっており、広く普及している従来の粘土で作ったキャラクターを動かすようなものとは大きく異なる。

「オオカミの家」ではキャラクターが紙で作られている。
紙製のキャラクターでのストップモーションアニメはLaika製作の「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」などでも使われていた手法ではあるが、今作では紙を使いつつもその表現様式が独特だった。

画面上に登場人物が現れる際に、まるで高層ビルが建築されるタイムラプス動画を観ているかのように、紙くずが集まって徐々に脚、胴体、頭という順番で人間が形作られていったり、手首から先だけが出現し、そこから伸びるようにして身体が徐々に出来上がっていくなど、アナログな表現ではあまり見たことがないような斬新な動きが見られるのだ。

紙でできている脆さや、出来上がる途中段階の人間の不完全で不気味な見た目が、マリア自身の不安を表しているようで、ストーリーと上手く合っていたように思えた。


また、実際の家屋の部屋の壁に直に塗料で絵を描き、パラパラ漫画の要領で物が動いているかのように描写することも多々あった。

これは大変な労力を要する表現で、部屋の壁を使う都合上、一度描いた絵の一部をわざわざ消す、または塗り直すなどしてもう一度微妙に違う絵を描くという手間のかかる作業が必要になるはず。

さらに部屋の隅から部屋全体に闇が広がるような場面では、黒い塗料で徐々に部屋全体を塗りつぶしていくなど、壁だけではなく天井も塗る必要があり、さらには別のシーンで結局は壁をつかうため、後から塗料を落としきれいにしなければならないという建築業者でもやらないような重労働を行なったことがわかる。

このように奇妙で不思議な描写が繰り返されるため、ストーリーについてあれやこれやと考えていら余裕はなかった気がする。

夢か現かわからず、どこまでが夢みがちな少女マリアの幻想なのか、はたまた斬新な描写による奇抜な表現なのか。

歴史的背景を調べずあえて情報を遮断した上で見始めて、画面上で繰り広げられる面妖さに恍惚とするのもいいかもしれない楽しい作品。
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