ごじゃ

人狼 JIN-ROHのごじゃのネタバレレビュー・内容・結末

人狼 JIN-ROH(1999年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

リアル系作画と呼ばれる物の一つの完成系と言える作品。AKIRA以降若手を中心に発展し、パトレイバー劇場版などによるレイアウト制の確立によって広まっていった、空間のパースを正確に意識した画面が最高峰のクオリティで観られる。
キャラクターの動きに関しては、ディズニーに代表されるフルアニメーションと異なり、非常にリミテッドに抑えられている。
リアル系作画と言っても、現実そのものの動きを絵に反映すると、絵から得られるイラスト的イメージとの齟齬により、アニメーションは不気味なものとなる。それを解決するため、ディズニーでは現実から必要な動きを選び、それを過度に誇張することで絵に生命感を与えていた。しかし、それに対して今作に代表されるリアル系作画は、誇張ではなく省略によって生命感を創出していると私は考える。要するに、必要な動き以外を削ぎ落とし、省略することによって生命感を生み出しているのである。詳述すると、表象する運動を制限し、動きの余分をなくすことにより、相対的に表象される運動が強調され、ディズニーの誇張と似た効果を生んでいるということだ。
しかし、両者が与える生命感の印象は必ずしも同一ではない。
ディズニーは現実を志向しながらも、誇張による極端な運動が観客に現実以上の感覚を与え、その運動から生まれる個のイメージや主体的なキャラクターに特徴があった。それに比べてリアル系作画は、動きを誇張しないため、観客により現実感を与え、かつ動きの制限、省略による静的なイメージに特徴があると言える。
魔法の物語を描くディズニーと、現実として説得力のある物語を描こうとするこの時代のIGの違いが作画の面からも見て取れると言って良いだろう。

本作はリアル系作画の到達点とも言える作品であるが、どこか閉塞感というか、行き詰まりのようなものを感じた。それはおそらく、リアル系作画というムーブメント自体の行き詰まりから来るものであるように思う。
現実とそっくりであるからといって、必ずしもリアリティが生まれるわけではない。むしろ、画面としての正しさを重視するあまりに、絵であることの魅力や、絵ならではの遊びが無くなってしまうこともあるだろう。現実に近づけるという方法で絵に説得力を持たせてきたリアル系作画だが、もしかするとその方法では更なる発展は難しかったのかもしれない。事実、現在は今作ほど純粋なリアル系作画を見ることはめったになくなった。リアル系作画という大きなムーブメントの揺り戻しとして、絵による面白さ、絵であるからこそ与えられる別種のリアリティの追求が生まれているとも考えられるだろう。しかし、日本のアニメーションの技術を何段階も上げ、現在につながるアニメーション制作の様々な方法を生み出したリアル系作画は、日本アニメーション史においてなくてはならないムーブメントであり、その作品たちは現在でも私たちに他では味わえない感覚を与えてくれている。
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