カトキチ

ツーフィンガー鷹のカトキチのレビュー・感想・評価

ツーフィンガー鷹(1979年製作の映画)
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この作品が恐ろしいのは、いわれのない恨みを他人から持たれてしまったヘタレな男が、原因も分からずに殺人鬼に追われ続けるということである。

しかも、その追い方たるや尋常じゃなく、執拗という言葉がこれほどまでに似合う映画もないくらいで、ユン・ピョウは手を替え品を替え逃げ続けるのだが、白虎という殺人鬼は彼を殺すまで絶対に諦めない。

香港映画特有のギャグもかなり織り交ぜられているが、そのギャグですら前フリになってる始末で、白虎登場シーンはすべてホラー映画のそれのように演出されている。そのキャラクターたるやまるで「香港のレザーフェイス」であり、そのあまりのインパクトにとあるショップでは彼の顔をプリントしたTシャツが作成されているほど。

割れた鏡で首を斬ったり、身体の外側から内蔵をぐちゃぐちゃにしたりとベタなギャグに対して惨殺シーンは陰惨極まりない。唯一の救いはゴアエフェクトに金がかかってないことで、血の色や肉体の損傷に作り物感が強調されてまだ安心だという点――――かと思うと、白虎が狂ってることを表すために、ゴキブリの首をもぎとって、タラーっと体液を垂らしたり、ユン・ピョウが逃げてる最中に生きたニワトリの首をもぎ取ったりと、今やったら動物愛護協会からクレームくること必至のモノホンを使ったシーンが飛び出したりして、作り物感で安心していた我々の度肝を抜いて来るのであった。

さて、この『ツーフィンガー鷹』。若干おもしろおかしくレビューしたが、映画自体は傑作だ。監督はユエン・ウーピンだが、彼の監督作の中でも最高峰の部類に入ると言ってもいいだろう。

デ・パルマ映画のようにカメラは絶えず動き続け、会話シーンですら一瞬たりとも気が抜けず、エイゼンシュタインのような突拍子もないモンタージュが飛び出すことでシーンの繋がりを映画的に演出する――――例えば悪人がテーブルにバンっ!と手を置くと、次のカットでその手がユン・ピョウの手にすり替わっていたり、先ほど書いた、身体の外側から内蔵をグチャグチャにするというシーンも、事件が起きていたそばで中華料理を食べているシーンがカットバックされ、身体をまさぐったと思ったら、次のカットでは鶏肉がグチャグチャにほぐされるのだ。これは身体の中が外側からグチャグチャにされるというメタファーなのである。

香港映画ではおなじみの獅子舞のシーンもスローモーションを多用して、美しく描かれていたし、ホラー映画のごとく殺人鬼が追って来るシーンではカット割が豊富で、ベタなギャグや通過儀礼、復讐劇も盛り込まれ、一本で複数のジャンルを楽しめるようになっている。

というわけで、いわゆる王道のカンフー映画を期待すると肩すかしを喰らう可能性があるが、サイコでホラーな血みどろ陰惨カンフー映画としてはおすすめ。ただし、トラウマ必至の恐怖があなたを待ち受けるので、相当な覚悟を持って観るように――――というのは言い過ぎか。
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