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灰とダイヤモンドのinuatsuのネタバレレビュー・内容・結末

灰とダイヤモンド(1957年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

ワルシャワ蜂起をドイツ軍が制圧した後、ソ連軍が進撃しドイツが降伏した1945年5月、ポーランド国内は共産党の派閥と反共産主義の愛国派に二分していた。主人公は愛国派で、ワルシャワ蜂起でドイツ軍に対して立ち上がり、なんとか生き延びた後、国の指揮を執ろうとする共産党派の要人をテロ攻撃で殺すテロリストとして地下活動に携わっていた。

この映画が撮られた1950年代半ば、ポーランドはすでに共産主義に染まっており、テロ行為に走る愛国派は国家の治安を乱す悪とされていた。テロという言葉に重なる悪のイメージは、今も昔も変わらない。テロリストというレッテルが貼られた途端に、彼らを一人の人間として捉えようとする人はいなくなり、排除すべき社会の癌とされてしまう。

しかし、目的のためなら手段を選ばない卑劣な獣というイメージでテロリストを片付けてしまって良いのだろうか。この映画の主人公は、いかにも情感に流されやすい、心優しい人間でもある。テロリストになるに至った経緯も、ワルシャワ蜂起に参加したことをきっかけに、歴史の流れに飲まれる中で、いつの間にかそうなってしまったということも否定できない。

ホテルで出会った女と交流する中で愛の芽生えに気付き、自分が標的と勘違いして誤殺してしまった死体を前に悩み苦しみ、暗殺業から足を洗って新たな生活を送りたいと願う、彼らも心に感情の通った人間である。

自分の身に脅威が迫ると、わかりやすい仮想敵を作り、有無を言わさず徹底的に排除するというのは、生存するための動物としての本能だろう。しかし、自分が仮想敵と見なした人間が生きてきた人生や、彼らを取り巻く歴史的背景を知らずに、私たちは彼らの行動を悪と断定することができるのだろうか。

弱い立場の人々を力で抑えつけ、弱者の視点からの歴史のナラティブを徹底的に潰していくことを繰り返していては、悲惨な過去からの学びを活かすことはいつまで経ってもできない。世界に対する底知れぬ怒りに燃える、本当に弱い立場の人々の声にどのようにして向き合っていくかということが、今なお私たちに突き付けられている大きな課題であるように思う。
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