めしいらず

復讐するは我にありのめしいらずのレビュー・感想・評価

復讐するは我にあり(1979年製作の映画)
3.7
人殺しへの躊躇いは一切なく、後悔や罪悪感に苛まれることもない。まるで日曜大工のように被害者の脳天にハンマーを振り下ろす。指名手配の写真がそこら中に貼り出されても大手を振って町を歩き萎縮するところがない。堂々としているが故に却って疑いの目が向かない。こんな冷血漢が普通人の皮を被って町に紛れ込んでいる恐ろしさ。この殺人鬼の日常と私たちのそれは同じ場所なのである。返り血に染まった手を己の小便で洗い流し、凶器に使う包丁により安い方を選ぶ様の感覚的なおぞましさ。緒形拳の堂に入った大怪演。巌自身の品性下劣さも、如何にも弁護士然、学者然として理知的な詐欺師としての巧言令色も、女に取り入り懐に入り込む人懐っこさも、見事なまでのリアリティ。主人公が唯一心通わせた女の、母親と数多の男たちに踏みにじられて来た人生に恨み言の一つも言わぬ哀れ。小川真由美も素晴らしい。彼女を殺す時にだけ主人公は躊躇い狼狽え傷んだ。彼女の元服役囚(殺人犯)だった母親の、世間の汚い側面を知悉し罵るようなダミ声、それ故に主人公とどこか相通ずるところがありそうな濁り切った眼差しも強く印象を残す。清川虹子もまた見事だった。
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