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メメントのnetfilmsのレビュー・感想・評価

メメント(2000年製作の映画)
4.1
 アメリカ・ロサンゼルス、保険の外交員をしているレナード・シェルビー(ガイ・ピアース)は、自宅に押し入った何者かに妻(ジョージャ・フォックス)を強姦され殺害された。主人公・レナードは現場にいた犯人の1人を射殺するが、犯人の仲間に突き飛ばされ、それが原因の外傷で記憶が10分間しか保てない前向性健忘になってしまう。冒頭、手首のスナップを利かせ、ポラロイド写真を感光させようとする主人公の姿は、薄れ行く記憶のメタファーに他ならない。10分間しか記憶が持たないレナードは、覚えておくべきことをメモすることによって復讐を果たそうとする。そのため出会った人物や訪れた場所をいちいちポラロイドカメラで撮影し、写真にはメモを書き添え、重要なことは自身に刺青として彫り込む。大切なのは記憶ではなく、記録だと言わんばかりに男の記録は極めて多岐に渡るのだが、実際に男が観た真実ではなく、断片的な痕跡や第三者の証言を元にして編集された恣意的な記録でしかない。

 クリストファー・ノーランのアメリカ・デビューとなった2作目は、前作『フォロウィング』の時間退行を更に推し進め、過去・現在・未来だけではなく、夢と現実、内部と外部の領域をも曖昧にする。最愛の人の死が、主人公を突き動かす原動力となる物語は、断片的な情報が集められ、最後に真相が明らかになるのだが、どうにも心許ない。レナードの周りにいるナタリー(キャリー=アン・モス)やテディ(ジョー・パントリアーノ)、ドッド(カラム・キース・レニー)やジミー(ラリー・ホールデン)などの人間関係の見取り図は刻一刻と変化し、ノワール・サスペンスとしての「疑惑」は立ち上る。「サミーを忘れるな」という文言は何度もリフレインされ、サミー・ジャンキス氏(スティーヴン・トボロウスキー)とその妻(ハリエット・サンソム・ハリス)とのやりとり、それを見つめるレナードの眼差しは順行するモノクロ場面となり、対照的にそれ以外の場面は時系列的には逆光するカラーで描かれる。頻繁に繰り返されるレナードの車による移動(テディのオマケ付き)はロサンゼルスから他州への移動のような長距離ではなく、専ら神経症的な短距離移動として何度も登場する。1回観ただけで全てを理解するのは困難な物語は口コミで拡がり、ノーランの名前を世界に知らしめた。
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