塔の上のカバンツェル

つばさの塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

つばさ(1927年製作の映画)
3.4
第1回アカデミー賞受賞作品賞。
ここから2年後の第3回作品賞で「西部戦線異状なし」が受賞して、そこから2022年版「西部戦線異状なし」がまた作品賞を取ると思うと、技術と演出、俳優の演技力などなど、映画史の進化の歩みを感じて感慨深くなったりした。

本作は古典的(まぁ古典も古典なので当たり前だけど)戦争ロマンス映画なので、贔屓目に観てもちょっと単調さは否めず。

しかしながら本作の空戦シーン、
実機によるに曲芸飛行や遠方ショットの乱戦模様、パイロットのドアップ、着脱して航空機の内部が損傷するカットなど…
航空機映画としてのフォーマットがすでに確立されているのが垣間見えるあたり非常に意義深い。

ドイツ側の視点や情け容赦ない地上戦の最中に、戦場に残った最後の騎士道精神が空にあったというのは、ww1映画としても古典たる物語でしょう。

【ww1要素について】

ドイツ軍の航空機で印象深いのは、ゴーダG.Ⅳ/V爆撃機(マーチンMB-2/NBS-1)。
大量の爆弾投下のカットとか、後の映画に与えた演出のこれも一つ。

地上戦は結構エキストラを使ってたりもしてて、多数のルノーFTが突破してたりと見応えもあった。
歩兵がゆっくり前進して白兵戦にもつれ込むのも、当時の戦闘教義に即したものであり、機関銃で大量の死体を積み上げた原因でもある。
戦車に踏み潰される歩兵とか、地上の惨さの演出も抜かりなく。

劇中描かれる最期の戦いは、1918年8月のサンミエル攻勢でしょう。
アメリカ軍が独立して作戦を展開する初めての大規模作戦であり、進撃するアメリカ第一軍とフランス植民地軍1個軍団の姿を画面に発見することもできます。


昨今のアカデミー賞の是非はともかく、映画史的に当時は過渡期にあって、サイレント映画との橋渡し的な表彰されるに相応しい作品だと思います。

あと、戦禍に呑み込まれて〜のナレーションで本当に渦が廻ってる絵を流してたりするを現代から観ると、この時代から現代にかけて観客の文脈理解も進歩してるなーと、文化風俗史的にも興味深かったりもした。

U-NEXTで日本語吹き替え選択すると活弁士調の吹き替えがついてて、しかもノリが江戸っ子というのに面食らう。
是非はともかく、公開当時に人々が鑑賞した観客の体験に近いのは、これはこれで映画体験だなぁ、などと。

【参考メディア】
「戦闘機大百科 第一次大戦・戦間期編」アルゴノート社
「第一次世界大戦の歴史大図鑑」株式会社創元社