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天国と地獄のMASHのレビュー・感想・評価

天国と地獄(1963年製作の映画)
5.0
黒澤の映画はなんかレビューが書きにくいな〜と思っていたが、ようやくその訳がわかった。彼の作品はなにより面白いのだ。深いメッセージや斬新で優れた表現方法というのはもちろんあるが、それ以上に単純にエンターテイメント性が非常に高い。そのせいで、僕のような単なる映画好きがなんやかんや分析しようとしても「面白い!」という感想に全てが覆い尽くされてしまうのだ。まぁそれで終わってしまうのもなんだかあれなので、なんとかレビューを書いてみようと思う。

やはりこの映画はなにより脚本が素晴らしい。もともと「徹底的に細部にこだわった推理映画を作ってみよう」ということで書かれた脚本であるため、細部までこだわっている。もちろん脚本だけではない。その演出やテンポというでも流石といったところだろう。前半は犯人に追い詰められる三船演じる権藤、中盤は犯人を追い詰める警察の視点、ラストは犯人がメインに描かれており非常にテンポが良く観やすい。これによりフォーカスがブレているということは一切なく、むしろこれによって観客を引き込んで離さないのだ。また一部だけカラーが使われるシーンがあるが、そのシーンの使い方がとてもうまい。僕のような素人目からみても「おおぉ!」と声に出して言ってしまった。

これ以前に黒澤明が撮ったサスペンスとして『悪い奴ほどよく眠る』がある。あの映画では正義が巨悪に負けるというのを強く描いたのに対し、この『天国と地獄』ではまたそれとは違う。うまく言葉にするのは難しいが、ラストの犯人と権藤との会話のシーンに全てが込められているだろう。"天国と地獄"を分けるのは人が持つ"善"と"悪"ではなく、正しいことをする"強さ"と誰しもが持つ些細な"弱さ"なのかもしれない。

まぁなんだかんだそれっぽいことを書き連ねたが、観ている間はそんなことは一切考えず、ただただこの映画に没頭してしまった。息もつかせぬ手に汗握る展開の連続で、まさに極上のサスペンス映画といったところだ。
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