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天国と地獄のRyuのレビュー・感想・評価

天国と地獄(1963年製作の映画)
4.1
靴会社“ナショナル・シューズ”の常務 権藤金吾の元に息子を誘拐した との電話が入る。息子の純はすぐに戻ってくるが、一緒に遊んでいたはずの運転手 青木の息子である進一がどこにもいない。誘拐犯は攫う子供を間違えたが、そのまま身代金 3000万円を要求。しかし権藤は近くに開かれる株主総会で会社の実権を握るために密かに計画を進めており、翌日までに大阪に5000万円送らなければ、地位も財産も全て失ってしまう という事情を抱えていた。

エド・マクベインの小説「キングの身代金」を黒澤明が映画化した作品。
巨匠 黒澤明が描くクライムサスペンス。
前半約1時間は権堂邸でのワンシチュエーションとなっております。この1時間がめちゃくちゃおもしろかった。自分の子供じゃないのに身代金を払う必要があるのか?妻や誘拐された子供の父親である運転手はお金を払って欲しいけど、主人公は会社のこともあって、そう簡単に身代金を払う と首を縦には振れません。犯人とのやり取り、会社のことのやり取りなど高い緊張感もありました。この主人公の葛藤やヒリヒリとした緊張感がすごく良くて、1時間あっという間でした。
約1時間の密室劇が終わると、物語が展開していきます。身代金受け渡しのための新幹線のシーンもまぁ緊迫感ありましたね。犯人に手のひらで踊らされてる感がありながらも、手がかりを掴むために奮闘する主人公と刑事たち。走っている新幹線の窓から鞄を落とす って手法は、今作公開後に模倣犯も現れてるみたいですね。
原作は現金受け渡しの際に犯人が捕まって終わりなんですが、今作は後半に警察側メインでの捜査劇が繰り広げられます。こちらも終始高い緊張感が張り詰めていました。前半でめちゃくちゃ広い家(天国)を見せられて、後半で横浜 黄金町などの荒れた町(地獄)を見せつけるってのもイイですね。
煙突から牡丹色の煙が上がるシーン。モノクロ画面にマスキング合成で着色したらしいです。この部分的に1箇所だけカラーを入れる手法は後にスティーヴン・スピルバーグが「シンドラーのリスト」でも使用していましたね。
ストーリー展開や演出の素晴らしさはもちろん、やはり演者も素晴らしいですね。三船敏郎、仲代達矢、香川京子などは安定の演技は言わずもがなですね。今作の演技で特筆すべきはやはり山崎努でしょう。まだまだ若くてカッコイイですね。ラストシーンは当初はああなる予定ではなかったらしいですが、黒澤明が山崎努の演技が良かったから、そこで幕切れにしたんだとか。
巨匠 黒澤明側描く現代劇での誘拐サスペンス。娯楽性もあり、天国と地獄 という社会性もあり、非常に見応えのある作品でした。
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