pika

スローターハウス5のpikaのレビュー・感想・評価

スローターハウス5(1972年製作の映画)
5.0
ちょー面白い。ちょー面白かった。心奪われた。
原作自体が他方に影響を与えた有名な小説とのことでオリジナルがまず凄いんだろうけど映画としても一級品。文句なしの傑作。
過去と未来と現在と時間トリップの演出が素晴らしい。感動した。
音をオーバーラップしてシーン転換、カットバックをグラデーションのように繋いでシーン転換とシーンの繋ぎをわかりやすく様々な手法で見せる。階段を登る、ドアを開けるなどの行動が過去や未来の行動とリンクして記憶がカットバックするのも良い。数個の時間軸を並行してドラマ展開させるので後半は普通にカットで切り替える。しつこくなく見やすくわかりやすい絶妙なバランス。この境界の演出が素晴らしい。
記憶がフッと蘇る瞬間を見事に可視化している。こういう類の映画は大好きなのでそうとわかると注力して見るんだけど、どれもこれも綿密に演出されていて凄い。どれも似ているようでそれぞれが個性的。今作は特に凄い。部分的ではなく全編に渡って見せねばならぬ演出なので飽きないよう繰り返しにならないよう練られていて面白い。
何度もじっくり見て隅々味わいたい。

「楽しいことについて考える。悲しいこと(つらいこと)は気にしない」みたいな台詞が2度ほど出てくる。楽観的で安易な台詞だなぁと引っかかっていて最後まで見るとこれは永劫回帰を表現しているのかと考え浮かぶ。でも繰り返されているのではなく過去未来現在が同時に存在しているという話だから違う。そもそもニーチェな映画ではない。四次元が時間云々という概念を表現しているのとも違う。単純に、純粋に人生の話だ。
脳にとって過去未来現在は平等に、同時に存在しているという観念を示しただけ。それを宇宙人や四次元や時間トリップなどのSFドラマとしてシンプルかつ理解させやすいよう導入した。なんということだろう。仰天のアイデアで見事な完成度。
ドレスデン爆撃の体験から発生したPTSDを転換させているとのことで、作品のメインテーマがシッカリとあるのも良い。世界最大規模の戦争の最中、捕虜として過ごすことで国や思想についてや敵や味方と戦うということを描き、様々な価値観を持つ人間が今その瞬間同じ場所にいるという奇遇を語る。それら全てを塵に変える破壊と共に行動の結果だけが淡々と表層される。
ドラマとしては爆撃と戦争が軸だが、中身はどんな時代のどこの場所でも同様に普遍的な人間の話へと置き換えられる。時間トリップの演出が人生の主観を、ドラマは客観的リアルを見せる。

主人公を演じたマイケル・サックスの表情が良い。驚き、慄き、受け入れる。楽しいことも悲しいことも全て受け止め、今のその瞬間を生きている姿を説得力のある表情で見せている。素晴らしい。
自動車事故がそこらのカーアクションより凄まじくて衝撃的。ヤバすぎるでしょ、おいおい、どこまでやるんだ!?っつー生々しさ。

この映画について考えるほど興奮で高揚する。原作も読んでみようとKindleポチってみた。
いい映画に出会えた。何度も見よう。
pika

pika