80年代作品にハズレなし、ロードムービーにハズレなし。
多分、若い人には良さがわかりづらい、けどそれでいいんだと思わせる作品。
人生の終盤をどう迎えるか、どういう感情が湧いてくるのか、老いるとはどういうことなのか。全ての人がいつかたどり着く旅路の終着駅。
出てくる人々がみな優しさであふれていて悪人不在。音楽はほぼなく、行く先々で出会う人たちとの会話がより浮き彫りになる。時折流れるのは優しいカントリーミュージックと賛美歌。
要所要所で静かに染み込んでくるセリフ。何気ないようで含蓄に富むやり取りの数々。実にうまい。
バス旅での心地良いひと時の交流が生まれる巡り合わせ相手をレベッカ・デモーネイが好演。彼女にも人生がある実在感が絶妙なさじ加減で語られる。
主人公の老婦人を演じるジェラルディン・ペイジがすごい。老人特有の挙動がリアルで、世の老いゆく母親像を見事に演じている。
現在の家庭環境に嘆く裏には老いてゆくどうしようもない苛立ちや焦燥感が隠されていて、それに向き合う家族の姿に共感を覚える観客も多いのではないかな。
繊細な息子と当たりの強い嫁。戦時下の厳しい時代を生き抜いてきた母に大切に育てられたのがよくわかる。
主人公視点で見ると一見ひどい扱われように感じるが、観客にはもう一歩引いた視点で捉えられる演出がなされていて秀逸。
誰しもが持つ故郷への思いが心に響く。荒れ果てた実家に足を踏み入れる母と、思い出の中だけでいいという息子。息子もいつの日か再び訪れてこの日を思い出しながら足を踏み入れるのかもしれない。人生ってそういうものだよね。今を生きることが大切。
なんだかんだでちゃんと迎えに同行する鬼嫁、理解されにくいタイプなだけのいい人だよね。極論、無視して家で寝てればいいんだから。もしかしたら母は認知症ぎみで何度も繰り返してるのかもしれない恐ろしさもちょっとあるな。