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ストレンジャー・ザン・パラダイスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.5
 ニューヨークの飛行場、トランク両手にぼんやりとジェット機を見つめるエヴァ(エスター・バリント)の背中。ハンガリー出身者であることを隠し、今はギャンブルで生計を立てる遊び人のウィリー(ジョン・ルーリー)は、クリーブランドに住む叔母(セシリア・スターク)から電話で従姉妹を1日だけ泊める約束をするが、滞在期間が10日だと聞いて激昂する。こうしてハンガリー語で会話をしようとする叔母を遮るニューヨーカーと、ブダペストからやって来たストレンジャーは奇妙な出会いを果たす。「クリントン通りから南へは行くな」ベッドでふて寝し、テレビを眺めながら口も聞かない2人。ウィリーがポーカーに興じるある日の午後、文無しのエヴァは彼に気の利いた食事を持ち込む。ウィリーの相棒エディ(リチャード・エドソン)の来訪、瞳の色が違う色白の少女にエディは一目で恋をする。長いようで短い10日間が過ぎ去り、気の利かないウィリーから贈られた餞けの白いドレス、女は嫌がりながらドレスを着させられるが、冬の寒空の下脱ぎ捨て、ゴミ箱へ放る。ニューヨークから叔母の住むクリーヴランドへ、エヴァは1人向かった。それから1年後、いかさまポーカーで大金を手にしたウィリーとエディは、エヴァが住むクリーヴランドへ会いに行く。ニューヨークでの女っけのない暮らし、エヴァがいた10日間の残り香、2人は郷愁とも恋ともつかない感情と高揚感を抱えながらクリーヴランドへ。雪の積もる凍えるような寒い夜、エヴァがバイトするホットドッグ屋に一般客のふりをして侵入する2人、「覚えているかな?」「さぁな」注文を取りに来たエヴァは2人に気付くと、喜びの声を上げた。

 ウィリーとエディは一家の「厄介者」でしかない鳥かごの中の少女を救い出そうとする。話の通じないロッテおばさんとのレイヤーの違いは歓待の食事の場面で現される。息の詰まるような3人の空間は、エヴァを介した3人の空間との居心地とは比べようもない。同様にホットドッグ屋の上司で、彼女の恋人であるビリーと4人で並んだ映画館では、屈強な2人の間にエディが挟まれ、ポップコーンを持つビリーも容易に手出しが出来ない。凍てつくような寒さのクリーヴランドから一転し、真夏のようなフロリダへ行こうと決めた時も、車中の3人の空気は多幸感に満ちている。しかしいかにも3流のボロいモーテルで、3人の姿は皮肉にもてんでバラバラになる。『パーマネント・バケーション』を撮り終えたジャームッシュに対し、兄弟子であるヴェンダースは81年の『ことの次第』の1/3のフィルムを突然無言で送りつける。同じくストローヴ=ユイレはネガ・フィルム1巻を無償で提供した。並み居る天才たちから無言の圧力を受けたジャームッシュはまず短編で今作の冒頭を飾った『The New World』を撮る。今作がロッテルダム映画祭で喝采を浴びたことで『One Year Later』、『Paradise』と3部構成の物語に長尺化した作品は、トライアングルの恋の行方をミニマムに綴る。無造作に置かれたカメラでの長回し、ごく短い黒画面が生み出す間、多幸感に満ちた3人のロード・ムーヴィーと当てどない旅、Screamin' Jay Hawkinsの『I Put a Spell on You』、モノクロームで描かれた物語は、エリー湖やマイアミの海、クリーヴランドの雪を白昼夢のような白が全て無化する。アメリカをたゆたう「漂流者たち」の物語は、レーガノミクスからもあぶれたアウトローたちを照らしている。
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