Qちゃん

メリエスの素晴らしき映画魔術のQちゃんのレビュー・感想・評価

3.8
映画史上初のSF映画であり、世界初の映画の国際的ヒット作であり、その物語性や特殊効果からも後世に大きな影響を与えたジョルジュメリエスの代表作「月世界旅行」。その長年失われていた手彩色のカラー版を完全復元した本編と、メリエスについてのドキュメンタリーの二本立てになっている。オリジナルの「月世界旅行」白黒版は過去に試聴済み。

まず本編の方だが、なんなんだこの彩色は。。発見されたフィルムの損傷が激しかったから復元は大変だったって言ってたけど、え、頑張って直してこんな感じ?なんかスケッチブックのパラパラでも見てるかのように同じ物の色がチラチラ変わったりボヤけてるのはなぜ??どこまでがオリジナルで意図された物で、どこからが復元の限界なんかがちょい微妙。。と思ってたら、後半のドキュメンタリーで解説があり、ハリウッドのテクニカラー以前には、なんと職人が白黒フィルムの一コマ一コマに手描きで彩色してたとのこと!ええええなにその手間!!

色づき方だけで漂う幻想世界のアート具合。有名な月の顔面にロケット弾がブッ刺さるシーン、白黒版だとコミカルだと思ったのに、色が付いた途端、刺さった月が血を流すシーンが急に生々しく感じられて。。

後半の第一部がメリエスの人生と作品の特徴のドキュメンタリー。

初めて知ったメリエスの物語。稀代のマジシャンが、アートを愛し、人を楽しませることを追求する中で、新技術シネマトグラフに夢中になる。そして、あっと驚く映像マジック、視覚的に楽しめるスラップスティックな笑いと、誰もが作られた世界を笑顔で楽しめるエンタメという、その後の映画の方向性と未来図を描いてくれた。

史上初のSFXが偶然から生まれ、手品師ならではのアイディアからどんどん広がっていったというのが面白い。既にある物を繋げて新しい物を生み出していく典型例。

観ながらなんとなく小林賢太郎思い出した。彼も視覚的◦言語的な様々なトリックを手探りで考え出して短編舞台に反映してみるタイプ。(←並べるなと思った人すみません。。並べた訳では。。)

メリエスの作った、世界初の映画スタジオは総ガラス張り!今みたいな明るいライティングできないから自然光を沢山取り入れるためだが、いまと真逆で驚いたし、逆に素敵!!

「月世界旅行」の撮影期間や予算規模が前代未聞だったとのこと。トムハンクスも参加した、再現スタジオでの再現撮影の様子を見てると、メリエスの短編群からは手間や美術やスタッフ動員が比べ物にならないほど掛かってたのがよく分かる。

…こ、こんな初期から海賊版に盗作問題。。涙
出たエジソン!悪者だなー。
リトグラフ的なストーリーボードか絵コンテや背景美術の美しさよ。。
しかしすぐに飽きていく観客。幻想ファンタジーからリアリティへの嗜好の移行。
南極到達に飛行の実現と、夢を凌駕していく現実。
時代の変遷と失意の中で自ら炎に投じた500本ものフィルム。
生前に再評価があったのは救い。。

そして後半第2部が、彩色版フィルム復元のドキュメンタリー。

…彩色版にいろいろ文句垂れて申し訳ございませんでしたっ!!汗🙇

偶然の発見からの、状態が悪いというか、もはや溶けかかったフィルムの解しから始まり、バラバラの何千コマのフィルムに対する白黒版との欠損見比べに継ぎ足しに色足しに画質復元と、気の遠くなるような作業。。ひとえに、幻のメリエス作品を観たいという情熱、そして映画史に残る文化財保護のために。

これは面白かった!メリエスの「月世界旅行」観たことある人、メリエスに興味ある人に観てもらいたいドキュメンタリーでした。
Qちゃん

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