爆裂BOX

クライヴ・バーカー ドレッド[恐怖]の爆裂BOXのレビュー・感想・評価

4.0
学生のスティーヴン、クウェイド、シェリルが始めた奇妙な研究。心に深刻なダメージを負った被験者をインタビュー・撮影し、恐怖心理の根源を探る。自らも精神的外傷を持つ3人は危険な実験にのめりこんでいくが…というストーリー。
クライヴ・バーカーの短編集「血の本」シリーズの二冊目「ジャクリーン・エス」に収録されている「腐肉の晩餐」を映像化したサスペンスホラーです。
自らも心に深いトラウマを持つクウェイドは、やがて中途半端な他人の恐怖体験のインタビューを集めるだけでは満足できなくなり、次第にサディスティックな異常性を露にし、エスカレートしていく。止めようとするスティーヴンも恐るべき真実を知る、という内容です。
原作は大分前に読みましたが、短編なので当然ながらアレンジは加えられていますが、大筋は原作通りに進んでいたと思います。前半は、ふとしたきっかけでクウェイドと知り合ったスティーヴンが、卒業課題としてクウェイドの提案する「恐怖」という心理の根源を解明する為に「心にトラウマを持つ被験者にインタビューを行いその様子を撮影して調査データを集める」という研究を行う為、トラウマを持つ人々のインタビュー映像が流れたり、シェリルやスティーヴンが自らのトラウマを語ったり、スティーヴンとシェリルが恋愛関係になっていったりと病んだ若者達の暗めの青春ドラマという感じでスローテンポな展開ですが、クウェイドが見る幼い頃に目の前で両親が殺人鬼の斧で惨殺される悪夢で、母親が斧で顔面まっぷったつに割られたり、上半身だけで切断面から内臓出した死体の幻覚見たりとグロ描写もちょこちょこ挟み込まれたりして個人的には飽きずに見れました。
原作ではクウェイドと付き合っててスティーヴンとはそれほど面識なかったシェリルは、こちらではスティーヴンと前から友人関係で恋人になる設定に変えられてますね。原作でスティーヴンのトラウマだった子供の頃に難聴で耳が聞こえない時期があったという設定はオリジナルキャラのジョシュアという青年に引き継がれていて、スティーヴンのトラウマは兄の事故死から死への恐怖を抱えてるというまあ、平凡な感じのものになっていますね。身体の半身にアザがあるスティーヴンの女友達アビーも映画のオリキャラですね。原作では詳しく語られなかったシェリルの菜食主義で肉嫌いの理由が語られてて、これは説得力あるものになってたと思います。
原作ではキモい感じの男だったクウェイドは「新米刑事モース」シリーズの若モースでお馴染みのショーン・エヴァンスがが演じててイケメンな感じになってますね。原作では終盤で明らかになる彼のトラウマは映画では前半で明らかになります。後半にかけてドンドン狂気に包まれて暴走していきますが、過去のトラウマから幻覚に苦しみ、怯える姿も描かれて単純なサイコキラーって感じではないですね。サデスティックではあるけど、人が壊れる様を見て楽しむ変態性癖というよりは、ラストのスティーヴンを黙って見つめる姿等、自分の恐怖と向き合った結果、人が恐怖と向き合って怯えて壊れていく姿を見ることに取り憑かれた観察者という感じだったな。ラストにかけては原作よりも邪悪さが大幅に増してたように思います。
後半からは暴走したクウェイドによる狂気の実験が始まりますが、アビーにする仕打ちはエゲツな過ぎ。精神的にエグイやりかたですね。その後のアビーの浴室のシーンも、派手なスプラッター描写ではないけどリアルに痛みが想像できそうな痛々しいものになってました。
スティーヴンがクウェイドのトラウマ利用して追い詰めようとする所は面白かったな。
原作のタイトルになってる「腐肉の晩餐」のシーンも、監禁されてボロボロになったシェリルの姿と、蛆が湧いて変な汁も出てる腐った肉を…のシーンも忠実に再現されてました。個人的にはもっと腐って蛆も結構湧いてるイメージだったけど。
ラストの流れは原作から大幅に改変されてますね。こちらは原作よりも救いがなく後味の悪い物になっています。このラストも好みではありますが、原作の他人を恐怖と向き合わせて壊す実験をしていた観察者が、その結果自らの恐怖が具現化した存在に襲われるという皮肉さと、それまで心理スリラーとして進んでいたのが斧ピエロによる血祭りスラッシャーへと変貌していくラストも映像として見て見たかったですね。
かなり陰惨で胸糞悪いので気軽にオススメ出来ないですが、低予算のサスペンススリラーとしては映像も中々のものですし、B級ホラーやサイコサスペンス好きな人なら楽しめる佳作レベルのB級サイコホラーだと思います。