ユウサク

悪魔のユウサクのレビュー・感想・評価

悪魔(1972年製作の映画)
3.5
『夜の第三部分』に続く二作目。
普通の映画の文法に慣れ過ぎていて暗転とともに「ブワアァァァア!!」というSEで強引に場面転換してしまう手法に思わず何度も笑ってしまうけどこれこそまさにズラウスキーによる「分断」の表現なのかなとか思ったりもする。ラストもすごいぶっきらぼうに終わるけど他の作品なら「雑」と感じてしまう要素もズラウスキーの作品では「パワフル」というポジティブな印象になるので不思議。口琴のボヨンボヨンいってる音とかもコミカルには感じるけど制作当時なら違った聞こえ方だったのかもしれないとか想像させる余地がある。また役者の演技も凄まじく特に喋っていたと思ったら次の瞬間には絶命しているマウゴジャータ・ブラウネックの演技は顔面がCGのようにぴたっと止まるので本当に驚いた。役者とは自分の身体を思い通りにコントロールする仕事なのだと改めて感じさせる。一般の観客からして「オーバー」だと感じる演技もそんな簡単に断定していいのか、実際に戦火に置かれた際自分は決してああはならないと言い切れるのか、2022年だからこそ想像してみる必要はあると思う。そのほかにも映画史上最も雑、しかし空恐ろしい感じもある決闘シーンややたらとポピュラーな悪魔の造形など、エキセントリックな映像の中にも真理めいた描写があり興味深い。
この作品での悪魔を「ポピュラー」と形容するのは人を扇動し操った政治家の多くがポピュリストだったから。カミソリを奪われて泣きそうになるところもラストで登場と共に「悪魔のズンドコテーマ」みたいな劇伴が流れ急にお役所仕事みたいになるところもキャッチーで笑ってしまうけど、えてして悪魔とはそういう親しみやすい存在なんだということだと思う。また悪魔が「浄化」の対象とするのは裏を返せばズラウスキーにとってはそういう対象ではないということで、ゲイや娼婦も単に差別の対象として描かれているわけではないのかもしれない。

ただいくらなんでも女性が死に過ぎだと思うし過剰に感情的に描くのは差別的に感じるけど今回最後に生き残るのは女性で、しかしそれもピュアネスと紐付けたりしてるのかなと若干訝しんでしまう。ヌーディティにも女性と男性で大きく差がある。
ユウサク

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