さわだにわか

デッドライン〜「恐怖の極限」とは何か?あるホラー作家の衝撃の体験!のさわだにわかのレビュー・感想・評価

3.5
見ていて思い出したのはノベルゲーの名作『街』の一編、ダンカン演じる俗悪トレンディドラマのプロットライターのエピソードで、かつて純文学の賞を獲ったダンカンは自分の本業は純文学作家でありプロットライターは単に仕事でやっているだけだと思っているのだが、そんな現状に嫌気が差していざ純文学に再チャレンジしてみると少しも書けない、パソコンに向かえばモニターにタイプされるのはその意志に反して下品なトレンディドラマのプロットばかりで、その理想と現実の乖離からダンカンの精神は次第に狂気に蝕まれていく。

『デッドライン』の主人公も大学での講義のシーンで自分はホラーに興味はなくあくまで病んだ社会を批評するためにホラーというジャンルを選んだに過ぎないと語っていたし、B級ホラーのプロデューサーの喜ぶアイディアは苛立たしげに破り捨てたと言っていたから、グロテスクなホラーの作り手として見られることに嫌気が指していたのだろうと察せられる。にも関わらず頭に浮かぶのは残酷でチープな(そして見てるこちらは楽しい)人殺しのシーンばかり。彼が本当に書きたいと思っている「芸術的な」作品など少しも書けないし、そんな能力はハナっからなかったのかもしれない。彼は所詮センセーショナルな描写だけが売り物の流行作家で、それ以上の存在ではない。そしてそのことが彼を苛立たせ、妻や子供への八つ当たりに向かわせ、追い詰めていく。

下世話な『シャイニング』というような作品で、カナダ映画らしく抑揚を欠いてまったりとしているが、なかなか面白い映画だった。
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