Kuuta

モンティ・パイソン/人生狂騒曲のKuutaのレビュー・感想・評価

3.3
歴史に残る下品さだとバビロンが盛り上がっているようなので、自分が知る中で最も下品なトラウマ映画を久々に見返した。

メンバーが全員揃った劇場版としては最終作となる。スケッチ(コント)を並べて何となく話が繋がるという、TVシリーズの形式を再現しており、エログロナンセンスも突き抜けているが、スケッチのクオリティにはムラがあり、内容も散漫。「人生の意味なんて描けるわけねーだろファミリー映画死ね!!!」というラストも含め、意図的なのは分かるが大変投げやりなまとめ方だ。

とは言え性差別と人種差別はクソ、貶しまくったキリスト教徒にも最後にエールを送る姿勢はパイソンズらしい。

⓪短編映画 『クリムゾン 老人は荒野をめざす』
テリー・ギリアムが勝手に作って予算の大半を使ったが、時間が長すぎ、他のスケッチとトーンも合っていないということで、本編と切り離した形で冒頭に置かれた。

ロンドンの保険会社の老人たちが反乱を起こしてビルを乗っ取り、建物を海賊船に変え、ウォール街の国際金融資本を襲撃する。

歴史ものと現代劇のミックスはパイソンズの得意パターンだし、やりたいことは伝わるんだけど、面白いかというとまあ…。バランスシートを死守する敵には笑った。古いビルがウォール街を移動する、ギリアムのミニチュア特撮には愛が詰まっていて、やっぱり可愛い。

①出産の奇跡
・分娩室コント。医者が病院の機材の値段を誇る。妊婦が普通にかわいそう。
・第三世界編。
一番有名なパートで、実際ここが一番面白い。コンドームを認めないカトリック教徒が子供を産みまくっている、というミュージカル。キャロルリードの「オリバー!」のパロディ。イングランド北部の灰色の街並みで子供が元気よく歌う。Every Sperm Is Sacredの歌詞はキレッキレで「異教徒よ、不毛の地に射精するがいい」とか言いながらみんなで楽しく体を揺らす。

②成長と学習
子供たちが学校でナンセンスなルールを学び、担任とその妻による実演付きセックスの授業を受ける。ラグビーの試合に駆り出され、大人にボコボコされる。わりと低調。

③互いに戦うこと
・第一次大戦の塹壕。爆発と銃声の中、隊長が誕生日なので、部下から高級時計やケーキがもらえる。みんな壊れやすいものばっか持ってきてて笑う。
・軍人による講義。「生きるとは、みんな意見が違うということだ。嘘だったら俺に天罰が下る」と言った瞬間に雷が落ちる。軍隊の訓練が始まるが、家に帰りたいなどの隊員の意見を尊重し、部隊は崩壊する。
・大英帝国によるズールー戦争。将校が寝ている間に虎に右足を食べられたことを受け、ジャングルの調査が始まる。虎の着ぐるみを着た2人組の男を発見、理由を問いただす。マイケル・ペイリンが適当な言い訳しながら虎の髭を撫でる仕草の謎、将校に怒られると俯いて虎の顔しか見えなくなる動きが可愛い。

④中年
アメリカ人をコケにするパート?中年夫婦が人生の意味を哲学から考えようとするが、哲学者のスペルにsがついているかどうかで議論になる。これもイマイチだった。

⑤生体臓器移植
臓器提供カードを持っている人を訪問し、生きているうちに肝臓を抜き取る話。グロい。

⑥晩年
これです。とんでもなく太ったクレオソート氏が高級フランス料理店へ。着席した瞬間にゲロ。バケツをお代わりしてゲロ。それでも食べに食べ続け、最後には…。周囲の客ももらいゲロの嵐で、見てるこっちもウッとなってくる。

高校生の時に初めて見て、衝撃のまま再生を止めた記憶。今回は相当身構えていたので大丈夫だった。Wikipediaによると「見るに耐えられなくて目を逸らした唯一の経験」だとタランティーノが話したこともあるらしい。

・ゲロを掃除するおばさんに場面が移る。実はインテリで、良いこと喋ってるかなと思ったら、ユダヤ人差別がポロっと出て強制フレームアウト。続くウエイターは田舎までカメラを案内して「誰かに安らぎを与えたい」と話すが、観客に伝わってないと感じたのか怒り出す。

⑦死
・男が性差別の罪で死刑になる。男はグレアムチャップマンが演じているが、彼が妊婦コントの発案者だったらしいので、ちゃんと①の落とし前がつく。
・枝についた葉が落ちたくないと叫ぶ超短編アニメ。面白かった。
・死神が田舎の家を訪問して死を宣告するが、芝刈りの営業か何かと勘違いされて意図が伝わらない。
・天国に出演者が全員集合し、ミュージカルが始まる

水槽に入った人面魚による会話が冒頭にあり、いつかは食べられる井の中の蛙が外の世界に思いを馳せる、というのが全体の構成。魚がポイントになるスケッチがいくつもあり、魚はキリスト教徒の象徴でもある(ダグラス・アダムズの影響?)。

スケッチの間を繋ぐギリアムのアニメが最終パートにしかなく、作品の統一感のなさに繋がっている。実写を撮ってる暇があったら…と言いたくなるが、直後からギリアムは「未来世紀ブラジル」を始めとした良作を連発するのであり、パイソンズの才能が別方向で開花する直前のステップだった、と見ることも出来る。66点。
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