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仁義の墓場のBigsのネタバレレビュー・内容・結末

仁義の墓場(1975年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

塚口サンサン劇場 35mmフィルム上映


前々から観たいと思っていた本作、面白かった。

終戦直後の東京が舞台。秩序を受け入れることができず社会不適合な性分を抱えたまま破滅に向かっていく男の話。はっきり言って完全に悪人で、善良な面なんてほんの少し垣間見れるくらいだけど、そのどうしようもない人間臭さは突き放しきれない。というよりも、社会に順応出来ないという点では自分にだって当て嵌まる部分がある。その点で実は結構普遍的な話でもあったのかなという気さえする。

まず冒頭10分くらいでヤクザ界の秩序が描かれる。組織同士の序列があり、弱い組織は取り締まられ時に暴力で抑圧される。そんな街のチンピラを抑圧していた渡哲也演じる石川力夫も、組の中では下っ端で上には幹部や親分がいて、絶対服従を強いられる。そして更にその組長達にも睨みをきかせる進駐軍MP。やってることは暴力的で反社会的なことなんだけれども、実はしっかり秩序立っていてバランスを保った世界になっている。
そんな世界で、本来衝動的で無軌道、かなり暴力的で凶暴な石川はその秩序立った世界に順応できない。自分のシマを荒らされたから、店で女を連れてるのが気に食わなかったから、金を貸してくれないことへの八つ当たり等の理由で、すぐに問題を起こし、組の中で締め上げられる。特に前半はその石川の無軌道さを象徴するかのように、手持ちカメラで迫力ある映像が展開される。しかも極度のアップも多く、異常な視界の狭さも短絡的、刹那的な内面を表しているかのようだった。
車を爆破させた後の制裁は、竹刀で殴られるけど、そのときの問答も「出てこい!」みたいな感じで、めちゃくちゃ暴力的だけどどこか親と子供みたいで、石川の凶暴性と表裏一体の幼稚さみたいなのが感じ取れた。その後傷の手当てをしてもらうところも、周りの人から瓶ごとお酒を飲まされるが、その様も哺乳瓶のようで幼児のように扱われているように思えた。秩序に順応した"大人な人間たち"と、どうしようもない人間性が拭えない"子供"の石川の対比として見える。
この制裁に対する怒りが収まらず、ヤクザ的秩序とは鼻から無関係な石川は親分を襲うという禁じ手に。そこから破滅へとまっしぐらに進んでいく。
破門になってからの大阪での荒み具合。釜ヶ崎でヘロインに手を出し、ヤク中になってより社会との乖離が強くなる。芹明子のインパクト。安宿で初めてヘロインを打つときに、隣の部屋でおじさんが合掌しているカットが強烈な印象を残す。この先の破滅を暗示したようなカット。安宿の構造上、ローポジションになるのでちょっと小津っぽく見えたり。その後、ヤクを買いに行き、田中邦衛演ずる尾崎との出会い。この田中邦衛も強烈。明らかに何かやってる感じだし、何するかわからない怖さもあり。
再度、東京に戻ってからの破滅に向かっていく展開は必然でありながら、社会と適合できない石川に、僅かに気持ちを傾けて観てしまう。唯一庇ってくれた今井への逆恨み、社会に適合できる者とできない者の軋轢が頂点に達する。そして、今井と妻を失ったことによる人間性の喪失。遺骨を拾うシーンの長さ、遺骨を食うシーンの凄み。

石川をあくまで最低最悪の人物として描ききった所も良かった。妻との出会い方、その後の仕打ちも酷すぎる。一瞬だけ、畳の焼け焦げた跡を見る所だけ僅かな人情のような物を感じさせるか。今井への感情、妻への想いははっきりさせずに、ただ残されたものは3者の名が刻まれた墓石だけ。

仁義なき戦いのように群像劇ではなく、主人公1人に絞ってるので、深作欣二の勢いとも合致し見やすいのではないかと思う。仁義なき戦いだと、ナレーションを多用していてあんまり群像劇の捌きとかその方向で上手いわけではないのかなと思っていたけど、今回の仁義の墓場は、ナレーションを使うけども、肝心の所は臨場感溢れるカメラワークで表現していたり、役者の芝居に任せていたりとより良さが出ていた気がする。
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