マヒロ

ジプシーのときのマヒロのレビュー・感想・評価

ジプシーのとき(1989年製作の映画)
3.5
ジプシーの青年ペルハンは豪快な祖母と足の悪い妹、博打漬けの叔父とともに暮らしていたが、ある日村にギャングがやってきてから生活が一変する…というお話。

一見悲劇な物語を徹底的に騒々しく描くことで喜劇のような雰囲気で包み込んでしまうのがクストリッツァ監督の特色だと思ってたんだけど、今作は動物が暴れまわったり楽器が鳴り響いたり物がぶっ壊れまくったり…なんてどんちゃん騒ぎはほとんどなく、運命に翻弄される青年の姿を割と重厚に描いたリアルさと、ほんのちょっぴりのファンタジー要素が混ざり合わさったちょっと不思議な映画、といった感じ。

主人公は祖母から受け継いだ超能力を使うことが出来るんだけど、超能力といっても小物を少し動かせる程度のもので、しかも村から町へ移った主人公はどんどん町の色に染まっていってしまい、かつてジプシーが持っていたのかもしれない力が殆ど失われつつあるのかもしれない…ということを想像させられる。その「かつてあり、今はもう無いものへの郷愁」というテーマは後の傑作『アンダーグラウンド』を思い起こさせられた。

川で催される幻想的な結婚式や、ヤケクソになった叔父がトラックで家の外壁を持ち上げてしまうシーンなんかのぶっ飛んだ映像のインパクトはすごいし、テーマ的には好きなものではあるんだけど、全体を覆うどんよりとしたムードが若干物足りなくもあったかな…という感じもあった。

(2016.57)
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