明石です

ハエ男の恐怖/蝿男の恐怖の明石ですのレビュー・感想・評価

ハエ男の恐怖/蝿男の恐怖(1958年製作の映画)
3.7
人類初の快挙である瞬間移動装置(テレポーテーション)を発明した天才科学者が、誤ってハエと一緒に装置に入り、ハエと融合してしまう話。クローネンバーグ監督のリメイク版が大好きだったので、このたびオリジナルも視聴。これは、、文句なしの名作でした。

リメイク版はハエ男の変貌をゴア描写をふんだんに織り交ぜながら克明に記録したSFホラー映画でしたが、こちらは主人公の変貌過程を奥さんの視点から語った、リアリスティックでシニカルなラブストーリーといった趣き。ハエ男の死後から物語が始まり、奥さんが旦那との思い出を回想していくという形式。リメイク版とははっきりとアプローチが異なっており、また別の魅力がありました。仮に甲乙つけるなら、私的にはリメイク版のほうに軍配が上がりそうですが(あちらは生涯で見た映画ベスト20に入る名作なので…)。

テレポーテーションを発明した主人公が「これで世界が変わる!車輪の発明以来の大発見だよ」と興奮気味に話すシーンは、のちの展開を知ってるだけに物悲しく、見てられないものがあった。中盤では何度か再生を止めながら少しずつラストまで辿り着きました笑。こんな悲しいストーリー、なかなかないと思う。たしかリメイク版ではラストで泣きそうになった私。

完成したばかりの(正常に動作するかは神のみぞ知る)転送装置に、一瞬たりとも迷うことなく飼い猫を入れるあたり、マッドサイエンティスト感むき出しでゾッとした。「原子猫になって空中を浮遊してるんだ。笑えるだろ?」って、笑えませんけど!?せめて犬にして…笑。リメイク版で転送に失敗し、猿の皮膚が裏返しになっちゃうシーンを見てるだけに余計怖かった。まあこちらはグロはなかったから良いものを。。

ハエ男のビジュアルは被り物感満載で、アカデミーの衣装賞を受賞してるリメイク版とは比べるまでもないですが、特殊メイクの至らなさはミステリー調の緻密なストーリーによってしっかりとカバーされてると思う。もちろん60年以上前の映画なので、特殊メイクなぞに期待するのはそもそもボタンの掛け違いですが。妻の驚いた顔を複眼で見せるシーンは個人的ハイライト。あの見せ方には少年みたいに感動しちゃった。

主人公の圧殺に使われたプレス機、仕組み的に奥さんの助けなくても1人で起動できるじゃん、、というツッコミはさておき、名作でした。よくこれだけの内容をこの短尺に収めたなと思うほど、充実した90分間。もし先にリメイク版を見てなかったら、確実に☆4以上つけてたと思う。クローネンバーグはさすが理系畑の人なだけあって、上手にリメイクしたんだなあとしみじみ感動しました。オリジナルに何かが足りないとかじゃなくて、単純にクローネンバーグが凄すぎたのよ。

——好きな台詞——
「人類の進歩が怖い?テレビやレントゲンは怖くないのに?それから地球が丸いことも」
「知れば知るほどに無知を悟る。永遠のパラドックスだ」
明石です

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