近本光司

吸血鬼ノスフェラトゥの近本光司のレビュー・感想・評価

吸血鬼ノスフェラトゥ(1922年製作の映画)
4.0
ひとは無意味に耐えられない。生命を容赦なく奪っていくペストの蔓延を前に、その突如として現れた災厄に意味を宛てがおうとする。この作品が呈示するペストと呼ばれる死病は吸血鬼によってもたらされたという物語に、封切り当時のドイツの観客たちは、数年前まで世界中で猛威を奮っていたスペインかぜの流行を重ね合わせて見ていただろう。ホラー映画とは陰謀論の一種であり、だからひとの心を打つのだということがわかった(あるいはその逆か)。建物が立ち並ぶ往来に、棺を抱えた人々が列をなす映像。あれはいまから百年前に撮られた。