ベルベー

雲のむこう、約束の場所のベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

雲のむこう、約束の場所(2004年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

新海誠が大御所になって久しい今観るのも乙なものだ。初期作品の中で「君の名は。」以降の三部作と最も繋がりが深いのは実はこの「雲のむこう、約束の場所」じゃないかという気すらしてくる。やりすぎな設定とやりきらないストーリー、個人的には好意を持てた作品なのだが、率直に言うとあんまり面白くはない。

知識ゼロで観始めて最初に思うのは「思想濃っ!」…観終わると全然思想の話してないというか、むしろ新海誠の興味がそこには全くなかったことが分かるのだが。多分、ゼロ年代に至るまでのアニメーションの共通言語としての開戦前夜設定なのでしょう。ここまで露骨に朝鮮半島に重ねてるのにやたらフワフワした設定なのは、日本産アニメーションだからな気がする、悪くも良くも。

研究室が露骨に「エヴァンゲリオン」だったり、風景は押井守の「天使のたまご」を想起させたり…先達の提示したアニメを新海誠なりにリミックスした感が強い。今や誰もが「新海誠ぽさ」を把握しているが、そこに至るまでの貴重な資料だね本作。

しかし後の三部作に繋がる面も多く、「すれ違う2人」ってだけなら「秒速5センチメートル」もそうだし「SF設定ですれ違う」なら「ほしのこえ」だってそうなんだけど、そのすれ違いの見せ方、再び重なり合うところの表現なんかは本作が一番「君の名は。」に繋がっている。

今やMCUがバカ売れしたので広く浸透しているパラレルワールド設定だけど、2004年当時はサブカル的人気・知名度の範疇だった気がしており(「龍騎」とか今やった方が受けそう)、それをこの時点でガジェットにして自分のやりたいことに活用しているのは新海誠、流石だなと思う。「夢」に重ねているのも「君の名は。」と一緒だね。

その他「拳銃」「椅子」などその後の新海作品を知っているとニヤリとするモチーフが。そういう意味で興味深いんだけど、そもそものストーリーはそんなに面白くない。あと、新海作品だと長所としても機能するモノローグと場面転換ですが本作は多すぎて集中を阻害する。あと、ハッピーエンドに見せかける構成が意地悪笑。オープニング思い出して「やりやがったなー!」と。監督的にはしてやったりなんだろうか。

天門の音楽は作品に寄り添っていて綺麗なんだが、ちょっとクドい。特にラスト。声優はしっくり来た。吉岡秀隆にモノローグさせまくる面白さ。萩原聖人含め、どうやってキャスティングしたんだろう?南里侑香は宮崎駿作品における島本須美的な。脇を固める石塚運昇と井上和彦も良い。
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