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ミュンヘンのprocerのレビュー・感想・評価

ミュンヘン(2005年製作の映画)
3.3
 恐ろしい。こんなに恐ろしい作品を観たのは久しぶりのような気がします。スピルバーグ監督の最新作ですが、近年のスピルバーグ作品を観るにつけ、描写のこだわりがその恐怖に直結しているのを感じます。「シンドラーのリスト」然り、「プライベート・ライアン」然り。

 「ブラック・ホーク・ダウン」で一躍メジャーになったとは思えないほどの存在感から、「ハルク」「トロイ」と当たり役が続いたエリック・バナの主演作です。パレスチナのテロリスト集団“黒い九月”によるオリンピック選手殺害事件の報復を描いた本作ですが、たった4人の仲間と報復をこなしてゆく主人公。その口から出る言葉や行動が、物語ることの恐ろしさ。イラクでの人質殺害とアメリカの報復。目には目をということがどんな結果を招くのか。そんなことすら見えなくなっている某国に対して、無言の抗議をしているのではないかと感じました。いやいや、そんなに浅い作品ではありません。もっともっと伝えたいメッセージが詰まった作品なのです。

 私にとって一番恐ろしかったシーン、それは私の頭の中で劇中に重なり作り出されました。IFの世界です。国がない人々、狂信的な人々。そんな人々の頭の中には、劇中にも描かれた殺人への罪悪感を別のものに置き換えたり、感じなくなっている人が多いであろう事実。そしてそんな人がもしかしたら我々の隣にいるのかもしれないのです。恐怖を感じるというよりも、人間としての方向性の問題も本気で考えました。正しく生きることの大事さです。ちょっとネタバレですが、それは劇中にとある人物が言った台詞にも現れています。”高潔なはずだった、でも自分すら見失った“・・・・。

 せめてこのレビューをご覧になった方々にも感じて欲しいと思います。目には目を、の結果を。日本にも古来からこんなことわざがありますよね。情けは人のためならず。その言葉の意味は、人のためにならない、という意味ではないのですよね?そう、その情けはきっと、自分に帰ってくるという美しい考え方のはずです。ペイ・フォワードの気持ちを忘れずに生きましょう。そういきたい!強くそう感じた作品でした。
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