さわだにわか

二人だけの砦のさわだにわかのレビュー・感想・評価

二人だけの砦(1963年製作の映画)
4.3
十年ぐらい前に観たときの記憶だとアイ・ジョージが黒猫を追って猟銃片手に団地を駆けずり回るも見失ってしまい宙に向かって猟銃をぶっ放す場面があったと思ったが、そんなものはなく、代わりに岡田茉莉子とウィリアム・テルごっこをする謎シーンがあったので記憶など頼りにならない。

宙に向かって猟銃をぶっ放すのは同じ渋谷実の「気違い部落」の伊藤雄之助。団地の冷え冷えした人間関係は「気違い部落」から、善く生きたいのに残酷な社会に流され堕ちていく男はこれも渋谷実の「酔っぱらい天国」、若者風俗であるとか社会風刺は監督渋谷・助演が岡田茉莉子の「悪女の季節」を思わせるところがあるので、折衷的な渋谷映画といった印象。

まぁ折衷というよりこれはゴタ混ぜなので意図は分かるが意味がわからないへっぽこシーン多発というのが渋谷らしくて良い。「猫だ!」「裏切ったな!」とかどこまで本気で撮ってるのか全然わからんよな(ふざけているとしか思えないのだが、そのくせ妙に重い)。渋谷映画といえば「壁」と「柵」で、人間の疎外状況がおそらくそこに託されているのたが、今回はオープニングからして刑務所の巨大な塀に沿ってひとりぼっちで歩くあまりにもちっぽけなヤクザ者、という構図でその大胆さに唸る。

バカ映画っぽいがそのバカバカしさの下には徹底した人間社会への諦念があるわけで、俺はその点で渋谷実はノワール監督としてのフリッツ・ラングと近い位置に立っていたと思うのだが、そんな風には冷たい世間は評価してくれなかったので渋谷実はこうして埋もれた巨匠に堕ちたのであった、というメタな顛末も含めて一見の価値アリな団地ノワールであった。

※猟銃を手に悲しみに暮れるアイ・ジョージと冷酷団地の上にそんな事情などお構いなしにデパートかなんかの広告ビラが降ってくる場面、ダイナミックでどこか現実離れして大好きなのだが、こういうシーンを撮れる松竹監督といったら渋谷実ぐらいではないだろうか。
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