KnightsofOdessa

ベルイマン監督の 恥のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ベルイマン監督の 恥(1966年製作の映画)
5.0
No.487[さよなら世界、ようこそ地獄へ] 100点(オールタイムベスト)

大傑作。1966年に撮影された「狼の時刻」の精神的に対となっている本作品。同作の公開の遅れによって実際には本作品の方が先に公開された。ベルイマン版「8 1/2」として芸術家の精神世界を探求し、人間の内的世界と外的世界の軋轢から絶望して失踪する男の心の地獄を描いた「狼の時刻」に対し、ベルイマンが初めて戦争を描いた本作品は、同時に島の内的世界と外的世界を対比することで芸術家夫婦の外的世界で起こる戦争という悪夢とこの世の地獄を描いている。徹底的に外的要因に翻弄され続ける夫婦は戦っている二つの軍隊(名前すら明かされない)から逃れるため船に乗るが、船頭が入水自殺したせいで船は漂流し、あたりを兵士の死体が流れゆくのだ。

夢見がちで鶏も撃ち殺せなかった夫と現実的で逞しい妻。二人は翻弄されるにつれて夫婦関係が逆転する。しかし、このようなミクロな変化もマクロな戦況には敵うことがない。二人の会話で興味深いのが"他人の夢に出ているよう"という妻の言葉であり、映画全体がまるで"我々の悪夢"であるかのような印象すら与える。

ウルマンは前作「狼の時刻」から本作品撮影までの間に女児を出産しており、ラストで言及される"産んだこともない娘を抱いていると爆撃機がやってくる夢"というのが、ベルイマンとウルマンの儚い年月を象徴する台詞なのかもしれない。
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