MasaichiYaguchi

ザ・バニシング-消失-のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ザ・バニシング-消失-(1988年製作の映画)
3.9
30年以上の時を経て、日本の年号が変わるタイミングで劇場初公開されたサイコロジカル・サスペンスのこの傑作は、登場する車やファッション、建物は時代を感じさせるが、描かれた人間の闇や業は現代においても古びず、そこにあるおぞましさや恐怖を炙り出していく。
このサスペンスの顕著な特色は、通常のミステリーのように犯人捜しをするのではなく、初めから被害者側と加害者側を明確に打ち出し、その対峙による関係性の変化によって緊張感を生み出していく。
物語は、恋人同士でドライブ旅行中に彼女がサービスエリアで行方不明になったことを発端に幕を開ける。
邦題の「消失」の背景は凡そ観客にも察しは付いているのだが、どのような経緯でそうなったのか、そして「消失」した彼女はどうしているのか、その肝心な部分は終盤まで霧に包まれている。
だから、不条理に恋人・サスキアを〝消失〟した男性・レックスは粘り強くその行方と顛末を明らかにしようと奔走し続ける。
片や限りなく〝黒〟の人物の日常も本作は丹念に映し出していくのだが、その二面性、ノーマルとアブノーマルの落差に愕然としてしまう。
本作が他のシリアルキラー物と大いに違うのは、この闇を抱えた人物が普段は至って〝普通〟、側からすれば〝善良な市民〟としか見えない点にある。
原題〝Spoorloos〟の意味は「痕跡がない」だが、その意味合いが終盤からラストまでの展開ではっきりとし、劇中の会話に登場する「二つの金の卵」の寓意も同様に怖気と共に明らかになる。
一見平穏な日常にある思わぬ〝落とし穴〟を本作は誇張することなく我々に提示するからこそ、そのゾワゾワとする感覚は後を引きます。