Kuuta

不安は魂を食いつくす/不安と魂のKuutaのレビュー・感想・評価

4.2
「天が許し給うすべて」は昔見たが、良すぎて自分にはまだ言語化出来ないわと何年もレビューを放置したままになっている。ファスビンダー翻案の今作は安定の面白さだった。そろそろサークも見返そう。

・昼食中に必ずボッチを生み出す恐怖の螺旋階段。カメラが回り込むことで次の誰かがフレームアウトさせられる。

序盤から寄り、引き、切り返しを使い分け、二人の距離を縮めていく。フレーム内フレームを多用しながら空間を切り分け、置き去りにされた人物を見つめる。長めの間の取り方が、鑑賞者に被写体の内面の分裂を考えさせる。この辺もサーク流。

公園の真ん中のテーブルでエミが泣く場面、受けるアリの表情で締めないことに痺れた。アリ視点の後頭部からエミ側にカメラが回転移動し出すが、エミ視点に映る手前で止まり、アリの本心は見えない。何ならそのまま回転を続けると、二人の間に街灯が入ってきて視線が断絶してしまうので、アリの心が離れていく終盤の展開まで示唆しているように見える。

・出会いのきっかけは突然の雨。結婚のきっかけは家主の息子の来訪。サークと同じく偶然に振り回される人の虚しさを描く。自由意志は最後まで貫けず、窓の内側から薄曇りの空を見上げるしかない。テレビを壊すのもサークへの目配せ?

・サークにおける人種差別や社会格差の問題は、ヒトラー馴染みのお店で外国人と食事する緊張感や、「間借り人は追い出す」といったセリフに顕著なように、外国人排斥を巡る戦後ドイツの不穏さに置き換えられている。

ただ、終盤は国家レベルの差別からグッとミクロな視点に降りてきて、そもそも愛し合っているはずの自分たちも偏見まみれで分かり合えていない、どうするか?というところまで行く。ママ友にアリの筋肉を触らせる場面、結局人として見ていないのはエミも一緒

・冒頭、エミがコートを脱いだ時の黄色の入ったワンピース、原色の鮮やかさに目を見張る。強い照明と動くたびに揺れる影。影を背負ったダンス、暗闇の不倫セックス。エミはアリに「色の付いた服」を着るように言うが、常に視線というストレスに晒される彼らは影の中にしか居場所がない
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