のりしろ

シェーンののりしろのレビュー・感想・評価

シェーン(1953年製作の映画)
4.8
この谷から銃は消え去った

過去の栄光にすがり土地に居座る地上げ屋
彼に雇われた殺し屋
そしてかつてガンマンであった己自身

それら全てが消え去ることで
時代は新たな方向へと歩み出す

シェーンは戻らない
一度人を殺めたものは
同じ場所には戻れないから

それでも少年は叫ぶ
終の住処の在り処を
共に生きる未来を

その遥かなる山の呼び声は
雄大なジョンソンの山嶺に木霊し
ただ静かに
消えゆくのみであった


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久しぶりにマイベスト映画が更新されました。
ありがとうございます。
5回くらい確認したけどこれ1950年代の映画なのですよね。信じられない完成度。

作品のメッセージ、ストーリー、時代背景
全てが緊密に折り重なりこれ以上ない作品。
シーン1つ1つがとでも丁寧で、登場人物の複雑な心理が、
台詞以上に「雰囲気で」感じ取れる。
言葉にしなくても分かる信頼と愛情、もどかしさと奥ゆかしさ。
「めっちゃ好き」以外の語彙が見当たらない自分を呪いたい。

映画に入り込み過ぎて「シェーンカムバック」
という台詞を知っていたにも関わらず終盤まで
「これ旦那が死んでシェーンが夫になるやつじゃね?」
と完全に思い違いしていたことはナイショだぞ。


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▼めも
ジョー・スターレットのフロンティアスピリットに見る
自利利他の精神

ジョーが何故あの土地で生き続けることに拘ったのか。
「命を懸けるほど大事なことか」という妻の言葉に、
明治時代の偉人・金原明善の生涯を思い出した。

静岡県浜松市を訪れると天竜川の雄大な流れを目のあたりにする。
この川がかつて近隣の村々を壊滅させ人々を苦しめたとは、
今では誰も想像がつかないだろう。
1850年に大決壊を起こして以降、この竜は5度に渡る決壊を繰り返し、多くの命を奪った。
途方に暮れる人々を救ったのが、金原明善その人である。
明善は時の内務卿・大久保利通との謁見の末、己の資材全てを政府に献上して資金を作り、天竜川の治水工事へと踏み切った。
最終的に天竜川上流で植林事業を行うことにより治水を完成させ、林業によりその地域の人々に新たな労働と生産の機会をも与える結果となった。
今日の街の発展に大きく寄与した人物と言って過言ではないだろう。

明善はなぜ自身の資材を投げ打ってまで治水に努めたのか。
彼の行動の原点にあったものは
「この地に住む人々のために」
「これからここに生きる子供たちの未来のために」
であった。

ジョー・スターレットもまさにこの精神の持ち主だ。
「この地でこれから生きていく人々のため」
「我ら子子孫孫のため」
自らが踏み台となり、この土地に楔を打ち込むために生きることを決めたのだ。

この自利利他の精神こそ、現代に生きる我々に最も必要な精神であるように思う。
明善やジョーほどの大事業はできなくても、
己の資材や人生全てをかけなくても、
日常の中で、ちょっとずつ相手の気持ちや立場に寄り添うことができれば、世界はもっと優しくなれる。

声がうるさいと子供たちを公園から追い出し、
大の大人が満員電車で押した押されたと喧嘩をはじめ、
SNSは毎日のように罵り合いと炎上騒ぎ。
こうした相互理解の不足を 、人種や宗教に置き換えてみれば、世界で未だに戦争が続いている理由が浮き彫りになる。
人と人が助け合うことができない社会は、ゆっくりと自分たちの首を絞め、やがて衰退していくだろう。

人はいつか死ぬ。
自分の人生の最後の時に、
ジョー、お前は本当によく生きた。
私もしっかり生きてやったぞと
胸を張って言える道を歩きたい。
そう思わせてくれる映画だった。
のりしろ

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