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ブラック・サンデーのtakのレビュー・感想・評価

ブラック・サンデー(1977年製作の映画)
3.7
公開が予定されていた1977年。配給会社と劇場宛てに脅迫状が届いた。その影響で劇場未公開となった本作。その後映像ソフトのリリース記念で初めてイベント上映され、2011年の「午前十時の映画祭」で公式に映画館で公開された。パレスチナ問題がこの映画の背景にある。アラブ系テロ組織"黒い9月"が登場し、イスラエルの諜報機関モサドの諜報員がその企みを阻止する活躍を描くストーリーだから、面白くないと思う方々もいらっしゃったということなのだろう。

しかしながら、スーパーボール会場のスタジアム上空で飛行船に積んだ大量のライフルダーツを爆発で隙間なく飛ばして、大量殺人を実行しようとするのは、アメリカ人のブルース・ダーンだ。彼がテロ行為に協力したのは、ベトナム帰還兵としてアメリカ政府に対して抱いていた様々な思いがあるからだ。同じベトナム帰還兵が登場する「タクシー・ドライバー」はこの前年、帰還兵の凄まじい復讐劇を描いた「ローリング・サンダー」は同じ年の製作。「ディア・ハンター」がこの翌年だ。「ブラック・サンデー」はテロ行為を前にしたパニック映画、諜報員のアクション映画との先入観を持たれがちだが、70年代後半から「ランボー」に至るベトナム帰還兵をめぐる映画の系譜と捉えるべきだろう。

映画前半は、組織の生き残り女性を追う諜報員と警察の姿が中心だ。ロバート・ショーが演ずるカバコフ少佐は手段を選ばない諜報員という前置きがあるが、無謀な捜査をする程度しか描かれず、盛り上がるのは入院した少佐暗殺未遂の場面(「キル・ビルvol.1」を連想する私は偏った嗜好?)くらい。少佐や組織の女性ダーリアのそれまでの辛い状況がもっと描かれると分かりやすいのだろうが、説明くさくなるのかも。いや、70年代の男映画はこれくらいがいいんだ。うん。

しかし、ライフルダーツの威力を試す壮絶な場面を挟んで、映画の緊張感は一気に高まる。犠牲となった男性と、壁に開いた無数の穴から漏れる光が、その威力を見せつける。この場面があるから、成功したらどれ程の犠牲者が出るのかを観客はしっかりと認識した上でクライマックスへと突入する。

この時期のロバート・ショーは渋いカッコよさがある。007映画で悪役を演じた頃のシャープさは失われたが、「ジョーズ」の漁師役みたいに経験を積んで傷つきながら生きてきた大人だと納得させる貫禄がある。本作でもそれは然り。

音楽はジョン・ウィリアムズ。80年代に活躍したクリスティ・マクニコルのデビュー作!?と聞くが発見できず。あのスタジアムの群衆にいたのだろうか。
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