こたつむり

ネズミゾンビのこたつむりのレビュー・感想・評価

ネズミゾンビ(2006年製作の映画)
3.8
♪ 何でもないような事が 幸せだったと思う

B級映画だと思っていたのです。
脳味噌すっからかんの。
「ビーバーがゾンビになった!」レベルの。
美女が水着でパッカーンと股広げちゃうレベルの。B級(というかZ級)映画だと思っていたのですよ。

でも、冒頭から沁みる音楽。
「え。え。これって何?」と驚く間に構築されていく物語。マンハッタンの片隅、取り壊される寸前の安アパート。日々を生きることで精いっぱいの人々。

しかも、彼らは貧しくとも汚れておらず。
元ボクサーの父親。顔に傷を負った娘。ゲイの黒人。シングルマザーとその息子。アパートの管理人。愚痴を言いながらも優しい隣人との交流。

僕は何を見せられているのでしょうか。
これはゾンビ映画ではないのでしょうか。

そう。
B級を思わせる邦題は隠れ蓑でした。
本性は“クソッタレな世の中で弱者が収奪されている有様”を描いた物語。青色を帯びた尖った空気が肌を刺す…そんな“やりきれなさ”に満ちていたのです。

仕上げたのはジム・ミックル監督。
鋭いセンスをお持ちの映像作家は、音楽を上手に使いますね。“全体で魅せる”ことを理解っていられるのでしょう。

しかも、本作は低予算の筈なのに(なんと5万ドルだとか)それを感じさせないクオリティ。この監督さんに予算を預けたらどんな作品を仕上げるのか…先行きが楽しみな御方です。これから注目ですね。

まあ、そんなわけで。
タイトルに騙されると損をする佳作。
文学的な着地点も含めて余韻がクセになる作品でした(説明不足の部分を想像すると更に味わい深くなります)。

ちなみに原題は『MULBERRY STREET』。安アパートが面する道路のことですね。元からゾンビ映画として売り出していなかったのです。それで、この邦題は…狙ったのか、それとも何も考えていなかったのか…。期待値が下がるから良い面もありますが、手に取る人が減ったら元も子もないなあ。
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