雨虎

ドラえもん のび太の大魔境の雨虎のネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

大長編3作品目。時代も変わらない地球での王道的な冒険物でこの前年に『レイダース/失われたアーク』が公開されたので、当時はこういう冒険ブームのようなものもあったのかもしれない。

今となってはおなじみであるが、スネ夫の博識ぶりには驚くばかりで序盤はこれがないと締まらないような気分にもなる。そしてそれを聞いたジャイアンがドラえもんになんとかしてくれと言えと無茶振りをするまでがある種の様式美となっていて、安心感がある。
ジャングルやサバンナを突き進み、険しい崖にも挑む様子は非常に子供心をくすぐる楽しい描写だ。私自身ものび太らと同じ年頃に冒険したい欲求があり、自転車で居住市外まで行くことだけでも十分冒険だった。

冒険をするものの、本格派なジャイアンからすれば道具に頼るのは確かに邪道な気もする。映画を見たり、サファリパークに行くのと何ら変わりない。あくまでも彼は冒険というスリルを味わいたいという気持ちはわからなくはなかった。親からすればとんでもない話ではあるが。
のび太が0点の答案を隠しに帰った時、のび太のママ(玉子)から行く場所を聞かれてアフリカと答え、玉子が一瞬は聞き流して驚くという流れは好きだった。
ジャイアンがあまりにも探検を中断されたせいで次に帰るやつは殴るという発言をしたのに、すぐに反故にし、いわゆる最速のフラグ回収を行ったのは今にも通じる面白さだと思う。また、ジャイアンの母にあまりにも殴られたせいで、誰も何も言えなくなっているのも初見では大笑いした。

ペコは自分たちの種族に関して人間よりも少し知能が高いと評価していた。映画をなんとなく見ているだけでは文明の発展度合いが遅いことでその評価が忘れられがちではあるが、5000年前に火を吹く戦車、空を飛ぶ船、そして巨大な動く像と凄まじい科学力をもっていた。日本ではまだ縄文時代に近代のような兵器を所有していたのだ。
そして、ペコは人間社会で潜伏するために犬のフリをした方が良いという判断をしたり、仕組みや日本語を理解するというように、知能が「少し」高いどころの騒ぎではないように思う。
そして、バウワンコ王国では古代ローマのような兵士と5000年前からほとんど変わらない文明レベルというのも不思議な部分はあったが、それも科学の研究を禁止されたせいだと考えると納得できる。
もし、この研究禁止がなければ天下を取っていたのはバウワンコ王国の犬たちだったと考えると、まるで恐竜が絶滅しなければこの地球を支配していたのは恐竜だったという説をなぞらえているような感覚だ。
その他、バウワンコ王国がなぜ今まで外の世界へ出なかったのか、地形的な問題もあるが、国内事情に特別な問題点もなかったことも考えると非常にすぐれた国だったことがわかる。

そして、ジャイアンの男気もここで登場したのはとてもよかった。
今回のジャイアンは無茶振りをし、わがままな事をいい、みんなを危険に晒したというおよそ褒められるべきところがないほど評価を落とされる流れだ。
一方で、拗ねてはいるものの危険に晒したことの責任を感じて途方にくれて涙を流している場面を見ると、心のなかでのリーダーシップの芽ができてきているのだと思った。その証拠として異常があれば確認しにいったり、やりたがらない事をするという積極性を見ることができるようになっている。彼なりにどうすればよいのか考えたようで感動的だ。
そして、ペコが一人で立ち向かおうとするのにジャイアンもついていくという場面は男気も出して、ある意味ではここで今のジャイアン像が完成されたように思う。

物語として、障害の多い冒険、10人の外国人という謎、悪事を働く政治家の成敗と様々な王道展開がなされており、非常に見やすい。
雨虎

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