櫻イミト

若妻・恐怖の体験学習の櫻イミトのレビュー・感想・評価

若妻・恐怖の体験学習(1972年製作の映画)
4.0
1972年製作。イギリスホラーの名門ハマー・プロ晩年のサイコ・ミステリー。「フランケンシュタインの逆襲」 (1957)「吸血鬼ドラキュラ」(1958)をはじめハマーホラーを牽引した名脚本家ジミー・サングスターの最後の監督作。原題は「Fear in the Night:夜の恐怖」。

ロンドンに住む新妻ペギー(ジュディ・ギーソン)はノイローゼに悩まされた過去があった。ある晩、彼女は黒い手袋をした謎の人物に襲われるが周囲は「悪夢を見たのでは?」と病の再発を心配する。不安な気持ちの中、夫ロバートが赴任した男子寄宿学校のある郊外に引っ越すのだが。。。

こぅ様のおススメで鑑賞。実に面白かった。前回紹介して頂いた「女子大生 悪魔の体験入学」(1973)もタイトルの印象を裏切る掘り出し物だったが、今回はさらに良い意味で裏切られる隠れた傑作だった。

タイトルベースから只ならぬ気配に引き込まれる。無人の学校風景に響き渡る生徒たちの日常ノイズと宙に浮いた誰かの足元。これが観客への出題となり、クライマックスの解答まで映画を引っ張っていく。

ノイローゼの過去を持つ主人公は「信頼できない語り手」であり、観客は始終根本的な謎に振り回され続ける。この映画はミステリーなのかオカルトなのか?起こっているのはトリックなのか超常現象なのか?この二択を迷わせる巧妙な罠(演出)が次々と繰り出され、流石は名脚本家の監督作だと唸らせられた。

解答編は全てが腑に落ちる鮮やかさ。たくさん映画を観てきたのでミステリーものは先が読めることが多いのだが、本作にはまんまと騙されて喜びを感じた。

ジャンルをクロスオーバーさせているがベースはサイコスリラー。同一人物のアップからアップへのカット割りで時間をまたぐトリッキーな編集や、映画の始終を結ぶフラッシュ・フォワードなど、映像もかなり計算されていて楽しめた。

観終わってみれば主要登場人物は4名のみ。それでこれだけスケール感のある映画を作れるのはシナリオの巧さに尽きるだろう。それに比べて邦題「若妻・恐怖の体験学習」は残念すぎる。人生の”体験学習”と言えなくもないが、ダメージが深すぎて学習を活かす機会が訪れるとは思えない・・・。

まだまだ知らないマイナーな傑作が埋もれているのだなと再認識した一本。
櫻イミト

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