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ドッグのotomisanのレビュー・感想・評価

ドッグ(1976年製作の映画)
3.1
 1976年、加州の某大学で映画サークルが恐怖映画の自主製作を目論み、元ネタはヒチコックの「鳥」として、一般学生はもとより大学町の面々もそそのかして、イヌ10匹はもちろん資材一切持ち寄りで制作したから当然B級。
 みんなそこそこ楽しんで出銭最少でやれやれと思ったら、お調子者太っちょハワード君の過剰演技で図書館の扉を本当に壊してしまい、大学当局に無届ロケも判明、弁償方々騒ぎとなってしまった。ついでに、用度課の赤ペンキ10缶の紛失も疑われたが、こちらは証拠不十分で収まった。

 制作を裏で統括したデイヴィッド・マッカラムことハーラン・トンプソン教授(動物行動学)はこう述べた。
 「ベトナムに敗けて、イヌにも敗ける合衆国の、次はネコにも敗けるだろう事を訴えたかった。
 正義を感じられない戦争を忌避する事は止むを得ない面もあるが、共産主義諸国と世界を二分する状況で常に戦う備えをもつことは自由主義世界の中心である合衆国の宿命である筈だ。
 しかるに、我々の一部は銃の扱いひとつ知らない事を誇りさえしている。今回の撮影でも若干のけが人を出したように、イヌにさえ我々は素手では立ち向かえず、10頭程度のイヌの突進にも我々はパニックを起こして統制を失ってしまうのだ。
 当の私もまた、生理学のマイケルに学生を任せてキャロラインのもとに向かうという無謀な筋書きに違和感を抱かず、演技中も拳銃を拾わず、携えたライフル銃も二挺のみ、車の窓もドアも開けっ放しという危機意識の行き届かない事を身をもって知る次第だった。

(中略)

 一方、科学技術とその産物が環境に及ぼす影響もまた十分な監視と対策を要する問題であって、この映画でも秘密研究の粒子加速器の運転が何らかの影響を及ぼしてイヌを集団狂気に陥れヒトを襲うという仮説を織り込んだが、実際には、この分野は現状まったくそのような危険な水準の試験に至る見通しにはないと言い添えたい。
 しかし、多種大量の化学物質が環境、生物各種および生態系への影響を評価される事なく消費され大気に排水に放出される状況は看過してはならない。間違いなく地球全体規模での回復困難な環境危機を遠からず招くだろう。すでに水生動物の一部の種で交接を困難とする性器発現異常が化学物質由来である可能性の大きい事を確認しているほか、フェロモンと同等の作用を及ぼす化学物質数十種を同定し、すでに数百種の生きものの行動異常を誘発し交尾の機会が大幅に減少する事も確認されている。
 さらに磁気、超音波、高周波の振動が生きものに及ぼす研究には軍と政府機関の資金が投入され研究内容の秘密保全が掛かっていることが判明している。こうした軍事に関わる事案にどのような監視が必要または可能であるか関係者との検討を申し入れているところだ。
 われわれはすでにヒト同士の戦いに加えて、ヒトが編み出した科学の産物との戦いの矢面にも立っている事を強調したい。そして、『負け続けへこたれる合衆国』を否認し、この危機に立ち向かう新たな仲間の参集を求める。
 最後に残念なことを一点打ち明けよう。ネコにニャーと鳴かせたのはよかったが、"CAST"のテロップを"CATS"としたものを訂正されてしまった事である。一つくらい笑わせどころを作ろうと申し合わせた筈なのだが、A級と胸の張れる映画作りは簡単ではないな。」

 なおハワード君の壊したガラス扉は同君の父上が弁償したそうであるが、大学町の建材店"DIY Kaplan"の親父さんである同氏もさすがにあの騒ぎでは大学に請求書を出すのをはばかったとの事である。
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