湯林檎

ベン・ハーの湯林檎のレビュー・感想・評価

ベン・ハー(1959年製作の映画)
4.1
ついに400本目到達🎉
記念すべき400本目として現在でも「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」と並んでアカデミー賞史上最多受賞作品として記録を残している今作をチョイス🎬
※「パラサイト〜半地下の家族〜」と悩んでいたけど「パラサイト〜」の方がレンタルが空いてなかったのでこちらの映画を選びました。

この映画をちゃんと観たのは今回が初めてではあるものの、中学時代の吹部の夏のコンクールで他校が「ベン・ハー 序曲」としてこの作品の序盤で流れる序曲を演奏していたのを聴いたことがある。
当時10代前半だった私は「めっちゃカッケェー!! 自分もやりたい!!」と思っていたが結局叶うことはなくそのまま自身も高校卒業と同時に吹奏楽を辞めてしまい、今日までその夢は叶わなかった^^;
個人的な思い出話はここまでとしても、やっぱり劇中音楽が素晴らしくトランペットやホルンなどの金管楽器による勇敢なローマの騎士の姿を表したかのような高らかなフレーズと弦楽器セクションの古代ローマ建築の模様のように壮麗なサウンドが作品の内容と見事にマッチしていると感じた。
流石はロージャ・ミクローシュであり、アカデミー賞劇映画音楽賞を受賞しただけある。


音楽に対する感想が長くなってしまったが勿論その他の演出も一流だと感じた。
世界一の有名人であるイエス・キリストの生涯を軸にしながらも肉付けとして男同士の復讐劇と家族、想い人に対する愛の物語を描いていて素晴らしい。
CGを使っていない舞台セットと演技、ちょっと回りくどい役者達の台詞回しは今の時代の映画に観慣れているとわざとらしさを感じるものの、この映画では古くから伝わる聖書物語を現代からタイムスリップして観ているかのようで逆に良い印象を受けた。
とは言え、正直なところ個人的には主人公のジュダ・ベン・ハーは本来の身分の高さに加えて様々な点で運の良さに恵まれすぎてて物語のキャラクターとしてはあまり感情移入は出来なかった。思うに、ジュダ・ベン・ハーは一般的な映画や小説のキャラクターとは違ってキリストと同じ時代を生きていた人達の代弁者として我々に時代の変遷を伝える役目をしている案内人のような立ち位置にあると考えられた。
そういう意味では叙事詩的映画として最高クラスの出来であると評されることに異論はない。

また、本作ではキリストの顔がアップで映らないこととキリスト役の俳優の地声での台詞がないのは私は正解だと感じた。これまでレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、カラヴァッジョ等偉大な芸術家達の作品を通してキリストの姿を沢山観てきたが当たり前ながらに描かれ方が異なっている。美術とは関係なくとも、一般的にキリストの姿やイメージはクリスチャンかそうじゃないかで思い描く人物像も変わってくるはずだし下手に細かく描いても宗教問題に発展せざるを得ないので非常にセンシティブで難しい問題でもある。このような難点をサラリと解決するかのようにあえてぼんやりと描くことによって逆により神秘性を増している。

個人的にはこの映画は1950年代だからこそ製作できた作品だと強く感じた。調べて分かったことだが終盤にかけて描かれる有名なチャリオットレースのシーンでの撮影でスタントマン以外にも何頭かの馬が撮影中の事故によってお亡くなりになっている。こうした状況に現代の動物保護団体が黙っているはずがないだろうし、そもそもが白人、キリスト教徒、異性愛者といった古くからアメリカにおいてマジョリティに位置する人達を賛美するする作品は2010年代になってからガクッと減ってきている。
もちろん現在数多く作られている様々なアイデンティティを持つ人々を描いた作品も素晴らしいと思うが、私としてはその時代精一杯の努力と時間と労力を費やして制作した作品も変わらず評価して欲しいと強く感じる。(とは言え人種やセクシャリティ等にうるさいのは日本人よりもどちらかというと欧米人だと思うけど)

上映時間が長くて気軽に観ることができる作品ではないものの人生で一度は観た方が良いと感じた作品だった。
湯林檎

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