お豆さん

イラクの煙のお豆さんのレビュー・感想・評価

イラクの煙(2010年製作の映画)
3.0
2003年にイラクのイタリア警察軍駐屯地で起きた自爆テロ唯一の生存者であるアウレリアーノ・アマデイが、体験を綴った小説『20 sigarette a Nassirya(ナシリヤでの20本のタバコ)』をもとに、自ら映画化。よく出来た映画かどうかは別として、非常に個人的でリアルな作品で、他の戦争映画にはない強烈なインパクトがある。

主人公である28歳のアウレリアーノは、映画監督を夢見て、それっぽい活動を仲間内で行いながら、日々過ごしていたが、ひょんなことから映画監督ステファノ・ロッラの「アシスタント・ディレクター」としてイラクへ向かうことになる。紛争地帯ということで躊躇するが、唯一無二の経験ができるという若々しい冒険心が勝り、家族や友人への挨拶もそこそこに、ほとんど気楽な雰囲気でイラクへと向かう。笑顔さえ浮かべながらイラク入りするも、現地で軍関係者と交流し、砂漠を、戦争で荒廃した街を横切るうちに状況の深刻さに気付きはじめる。そして訪れる自爆テロの瞬間。

前半、やや冗長気味に描かれる平和ボケしたローマの日常から、ゆっくりだが確実に緊張感が高まり、駐屯地に突っ込むタンクローリーで一挙にテンポが変わる瞬間までの展開は、その体験(そこだけ主人公自身の目線で語られる)の凄まじさを伝えるに十分過ぎるほどのリアリティがあった。一民間人でしかない主人公には、容易に自分自身を重ね合わせることが出来て、「もしも自分の身に起こったら」と想像してしまい、見ているうちにちびりそうになった。

メッセージ性のある作品というより、イタリアからイラクへ、そして再びイタリアへ、それぞれかけ離れた現実を体験者の目を通した記録であり、それだけで価値がある。彼の人生は、その瞬間に変わってしまい、家族や友人のもとに帰り、新たな生命を手に抱いている時も、記憶が蘇る。しばらく、口がきけませんでした。

2016. 82
お豆さん

お豆さん