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闇のバイブル 聖少女の詩のTnTのネタバレレビュー・内容・結末

闇のバイブル 聖少女の詩(1969年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

 自分、チェコ映画に弱いです。もう世界観から何まで自分のツボ。思えばシュヴァンクマイエルもチェコ、「ひなぎく」もチェコ、未見だがカレル・ゼマンもチェコだ。このチェコという国の、おとぎ話だが大人も楽しめるブラックさの絶妙な塩梅に、非常に惹かれるものがあるのだ。

 今作品は、例によってシュヴァンクマイエルの「アリス」に近い、ロリータ少女の物語である。とにかくこの少女をカメラは逃さない。写真のブロマイドのように、めくってもめくっても彼女のカットが占めている。「聖少女」と銘打ってるだけあって、どのカットも非常に美しく、彼女から目が離せなくなっている。

 そんな今作は、やはりカット優先である。編集で結びつけるには、カットが単体として完璧に成立しすぎている。どれも映えて仕方がない。以前からSNSで今作の切り抜きの画像が出回っていて気になっていたが、納得である。つまり、どこを切り取っても静止画として成り立つ程芸術性が高いカットなのだ。かといってパラジャーノフのように平面的で絵画的とも違い、やはりそこは映像的なのだ。そして編集の接続の曖昧さがより夢幻性を醸していて、楽しい。

 加えて演者の動きが独特で、やや人形のようで少し大げさで、それがとても良い。音声も後撮りなのが良い。虚構であり作られたものであることがわかり、そのファンタジー性に入りやすかった。その中でもあどけなく伸び伸びとした少女ヴァレリアが輝いている。あとは、祖母の若返りの演技もなかなか魅惑的。
 
 かなりエロティックな主題。初潮を迎えた少女の生き血を得ようとする吸血鬼や、その処女性を犯そうとする牧師など、やばい大人しかいない。パッケージとタイトルから少女が小悪魔的に作動するのかと思いきや、終始彼ら大人の間を揺れる存在として描かれている。そんな中、唯一の救いは兄であるオルリーク。性の目覚めによって、兄と結ばれることを望みつつも拒む揺れ動き。ただ、死んだり生き返ったりする世界観の中、もはや現実なのか夢なのかすら判別が付かない。今作品が大団円的に皆が集って終わったと思うと、一人ベッドに取り残されるヴァレリアの姿で幕は閉じる。それは壮大な夢オチとも言えるが、ただただ摩訶不思議な世界だったとも言えうる。お守りの耳飾り・真珠というキーワードも、掴みきれないまま終わってしまったし、また見よう。ある意味、大人はかなり二面性があって、唯一本心そのままであるのが少女(たち)であったような気がする。

 火炙りシーンの唐突さ。魔女として焼かれるヴァレリアの舌出しの反抗は魅力的。そして焼ける姿に項垂れる表情は、ジャンヌ・ダルク的な聖なるものを感じた。その他、いたちが出てきたり色々なモチーフがあるのだが、きっと意味があるのだろう。土着的な何かが。ただ、謎のままでも十分面白いので、謎のままにしておく。

 こういうシュールで大人向けの絵本のような童話は、非常に魅力がある。そんでもって、こうした作風はかなり荒唐無稽でも許されるところが多い。質感から構図、世界観から何まで好きでした。チェコ映画の手触りのある作り物感が好き。リアリズムから遠いこうした世界観を、自分もいつかは描ければなぁと思う。現実から離れた避暑地、守られた夢の世界としていつでも逃げ込みに行きたい映画です。
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